本人にはどんな苦痛があるのかを知る
ご本人の苦痛についての考え方
がんなどの病気で、厳しい状態にある患者さんについて、患者さんの辛さを理解するために、全人的苦痛を理解するという考え方があります。全人的とは、患者さんの身体や心理、社会的な存在として人間像をとらえることをいいます。人間が、心理的・社会的に存在している意識をもつからこその辛さが、全人的苦痛ということになります。
身体的苦痛
身体には、月ごと次第に週ごとに身体的に変化がおこります。最期のときが近づくにつれて、変化は日ごとにおきるようになります。そのような中で、患者さんにはさまざまな身体的苦痛があります。
痛み
痛みは苦痛のなかでも、最も現れやすい症状のひとつです。痛みの原因が病気である場合や身体を思うように動かせないことによる場合があります。
痛みがあると苦痛であるばかりでなく、痛みにより身体が動かせないといった影響も考えられます。このように、痛みのせいで、日常生活に支障がでます。
また、痛みのことが頭から離れず、安心して過ごせないことがあります。
家族にできること
痛みがあることを主治医などの医療者に伝えましょう。鎮痛剤の内服などにより、痛みによる苦痛を軽減することができます。
温めることやさすることでも痛みが和らぐことがあります。痛みを軽減することで、穏やかな時間を過ごすことができます。
痛み以外の苦痛
病気から現れる症状に、だるさがあります。だるさが強いと、生活のしづらさが生じます。だるさの原因としては、痛みや栄養状態の悪化、不眠などが考えられます。がんの治療などが原因でだるさが現れる場合もあります。
吐き気も現れやすい苦痛のひとつです。原因としては、便秘や消化機能の低下があります。さまざまな治療の影響で吐き気が生じる場合もあります。
肺に水分が貯留しやすくなり、呼吸困難が現れることがあります。病気によっては、咳が激しくおこることで呼吸困難感につながることがあります。呼吸困難は不安が原因になる場合もあります。
家族にできること
まず、これらの苦痛の症状があることを医療者へ相談しましょう。医師の判断で、これらの苦痛を減らす目的で薬の内服をすることができます。
それぞれの方の症状にあわせて、薬の選択肢があります。薬で症状をおさえることで、ご家族とともに穏やかな時間を過ごすことができます。
身体的苦痛が生活に支障を与えるだけでなく、不安な気持ちや不眠などにつながる可能性があります。ご本人が無理をして、身体的苦痛を我慢していないか気にかけることも大切です。
我慢しすぎないように声をかけることで、ご本人の苦痛を軽んじていないことを伝えることができます。また、苦痛症状があることを抱え込まずに、相談する習慣を大切にしましょう。
精神的苦痛
病気による苦痛な症状が続いたり、先行きに不安があったりすることで、精神的にも苦しい状況になることがあります。
精神的苦痛とは、不安や悲しい気持ち、苛立ちなどが続くことをいいます。ひどい場合にはうつ病のような症状が現れる場合もあります。
不安などの気分の変調が原因で、食欲がなくなってしまうこともあります。安心できない状態が続くことで、人との関わりや日常生活に支障が出ます。
家族にできること
まず、精神的な苦痛が現れやすい状況を周囲が理解をすることが大切です。そのうえで、本人がお話しできるように、配慮することが大切です。
お話をしたり、ご本人の様子を見ていたりして、必要があれば主治医などの医療者へ相談をしましょう。ストレスが増える時期に、支えてもらう医療者などに頼ることが大切です。
不眠やうつ状態が強い場合には、内服薬で対処することもあります。
精神的苦痛があるときには、痛みが強く感じられたり、呼吸の苦しさを感じたりする場合もあります。少しでも、精神的に安らぐ時間を過ごせるような工夫ができるとよいでしょう。
社会的苦痛
社会的苦痛とは、仕事や家庭の悩みや経済的な悩みのことです。例えば、仕事では、病気が原因で仕事の役割を思うように行えない事、目標としてきたことが実現できないといった事があります。
家庭の悩みでは、家族に迷惑をかけているという思いから、自分を責めてしまう状況などが考えられます。入院中などに、自宅にいる家族がどのように過ごしているか不安に思うことなどもあります。
また、治療や療養にかかるお金についての心配、家族の生活を経済的に支えられるかといった悩みなどが経済的な悩みとしてある場合も多いでしょう。
家族にできること
経済的な悩みは、仕事や家庭の悩みともつながりのある問題です。医療費負担が大きい場合には、医療者へ相談し、医療費の軽減などが可能か相談することができます。
仕事や家族の悩みを感じていないか周囲の人が気にかける必要があります。もし、悩みがある場合には、よく話しあうことが大切です。
家庭内の関係などで、うまくいかない問題を抱えている場合にも、看護師などの医療者に相談することができます。すぐに解決することは難しくても、より良い方法を一緒に考えることができます。
死を意識することで、存在的な空虚感などを感じる場合
健康で生きてきた自分という存在が、病気が原因でおびやかされることから生じる苦しさをスピリチュアルペインといいます。
この辛さには、さまざまな悩み事が含まれます。気持ちとして話される場合もあります。生きる意味や死後の不安などが、言葉では表現できないけれど態度などに現れる場合もあります。自身の人生を無価値なもののように感じてしまう状況です。
こういった苦痛が強い場合には、痛みや不安なども強く現れると考えられています。スピリチュアルペインがあることが、身体的にも精神的にも悪影響を与える可能性があります。
家族にできること
ご本人の不安や迷惑をかけて申し訳ないといった、気持ちや悩みを軽んじないようにする事が大切です。気持ちを聞くときには、否定をせずに、ありのまま受け止めるとよいでしょう。
家族としての考えや気持ちを言葉を選んで、伝えることも大切です。家族だけでは、対応が難しいと感じる場合には、看護師などの医療者へ相談しましょう。
患者さんの人生をありのままに尊重することで、気持ちなどに変化が起こる場合もあります。解決の難しい問題でも、ともに悩み、寄り添うことができます。