医師 A.K-Okamoto (MD)
専門分野は消化器内科で主に胆膵をメインとしながら、救命センターでの集中治療や3次救命での従事経験も豊富な救急専門医としても活躍。どこまでも分かり易く真の優しさが伝わる医療記事の執筆も評判 - 女性
膵臓がん
Pancreatic cancer
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病気が辿る経過 - 膵臓がん

病気が辿る経過 - 膵臓がん

膵臓がんは一般的に発見された時点で余命1年と言われることが多いガンです。その理由としては膵臓が胃や十二指腸などの裏にある臓器のため、エコーなどの検査で見えにくいためガンが見つかりにくく、発見された時点で既に進行してしまっていることが多いことなどが挙げられます。

そのほか、膵臓自体が1cm程度の薄い臓器であり、ガンが少しでも成長するとすぐに膵臓をはみ出して周りの神経や血管、臓器などに及んでしまうため、進行自体が早いことも挙げられます。膵臓がんと診断された時点で手術ができないと言われた場合、余命は半年から1年、悪い方では3か月以内と同時に告知されることが多いです。

診断された段階では症状がない方、軽い腹痛だけの方もいますが、ガンの進行に伴い徐々に痛みや体重減少など様々な症状が現れてきます。ガンが膵臓のどの場所にできるかにもよりますが、頭側、腸管に近いほうにできた場合は胆管(肝臓からの消化液を流す管)をふさぐこともあり、内視鏡で人工の管を入れて消化液の通り道を作る治療が必要になります。

また、先に挙げたように胃や十二指腸の近くにあるため、ガンが進行し腸管などをふさぐと、内視鏡で腸に金属製の筒を入れる治療や、胃と腸をつないで食物の通り道を作る手術(バイパス手術)が必要となることもあります。

また、膵臓は体の中で唯一血糖を下げるホルモンを出す臓器なので、ガンにより膵臓の働きが不十分になってくると糖尿病を発症する、また、元々糖尿病のある方は症状が悪化することもあります。

終末期の特徴 - 膵臓がん

終末期の特徴 - 膵臓がん

手術ができない段階の膵臓がんでは抗がん剤治療を行う方も多いですが、抗がん剤では根治とすることはほぼできません。そのため、抗がん剤治療はガンの進行を抑える事で少しでも「元気でいる時間」を長くすることを一番の目的とし、抗がん剤の副作用とガンを抑える効果とを天秤にかけながら治療を行っていきます。

ガンの副作用として食欲不振や吐き気、体のだるさ等を認めた場合は抗がん剤を変更もしくは減量する必要があり、いずれはガンの進行を抑えきれなくなる時が来ます。抗がん剤が効かなくなった場合は、それぞれの症状に対する治療をメインに行っていきます。

膵臓がん末期では著しい体重減少や体のだるさなどがあり、長時間の歩行等ができなくなってきます。また、徐々に痛みも強くなっていき、痛み止めの薬を調整して対応していくことになります。

そのほかガンにより腸や胆管などがふさがれた場合は内視鏡治療や手術が必要となることもあります。徐々に食事もとれなくなってくるため、飲み薬や食事の調整等を行います。

さらにガンが進行すると徐々にお腹の中に水が溜まってくるため飲み薬で対応したり、それでもお腹が張って苦しい場合は処置を行ったりして対応していきます。

諸症状 - 膵臓がん

諸症状 - 膵臓がん

初めは腹痛やお腹の違和感がある方もいますが、自覚症状がなくたまたま他の検査などで見つかる方もいます。また、前述の通り糖尿病になることもあり、糖尿病発症をきっかけに見つかる方もいます。

膵臓の頭側(十二指腸の近く)にできたガンであれば、肝臓からの消化液(胆汁)を腸に流す胆管という管をふさいでくるため、黄疸や肝機能障害、白っぽい便や濃い尿などを認めます。膵臓は大きな神経の近くにあるため、神経にガンが及んでくると腹痛を認めます。腹痛以外に膵臓が背中側にあることから背中の痛みを伴うこともあります。

また、膵臓がん末期となると激しい体重減少を認めます。膵臓がんが十二指腸など腸管をふさいでしまった場合は食事が腸の奥に流れなくなるため食事ができなくなることもあります。

その他、膵臓がんは肝臓や骨、肺などにも転移することがあり、背骨などに転移した場合は転移した場所の痛みを伴うこともあります。膵臓がんが脳に転移した場合はてんかんが出現することや、意識が悪くなることもあります。

痛みや苦しさが出やすい所 - 膵臓がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 膵臓がん

腹痛、特にみぞおちのあたりの痛みや背中の痛みを多く認めます。また、骨などに転移した場合は転移した場所が痛むことがあります。痛みは鈍痛が多く、痛み止めを使用していても徐々に強くなってくるため、徐々に痛み止めの量を増やしたり、種類を変更したりと対応が必要となってきます。

痛み以外にもガンが進行するとお腹の中に水がたまり、お腹が張って苦しくなることもあります。そのほか、全身がだるくて苦しい、吐き気が続いて苦しい、便秘、下痢などで苦しい、息苦しいなどの症状が出てくる可能性もあります。

死期が近い兆候 - 膵臓がん

死期が近い兆候 - 膵臓がん

抗がん剤治療などを行っているにもかかわらず膵臓がんが進行していく場合、余命は確実に短くなってきています。そのほか、お腹に水が溜まってくる、脳への転移を認めるなどがあれば、徐々に膵臓がんが進行してきていることを示しており、確実に死期は近づいていると考えられます。

死が近づくにつれ、身体はやせていき、食事もなかなか食べることができなくなってきます。身体がだるく、眠る時間も徐々に長くなっていき、意識ももうろうとしてきます。

ケアのコツ(要所) - 膵臓がん

ケアのコツ(要所) - 膵臓がん

膵臓がんでは様々な症状も出てきますが、普段から様子を観察し、気づいたことがあれば医師に伝えることが重要です。

患者さん本人は少しずつの変化であれば気づかないこともあり、周囲も何か変化がないか注意しておくことも必要となってきます。白い便が出る、目や身体が黄色くなってきた場合は内視鏡治療が必要になることもあります。

お腹に水がたまる場合、その前に足のむくみが出てくるので注意しておくことも必要です。食欲がないのであれば飲み薬等での治療もあるので、食事量の変化等を見ておくことも重要です。

また、がん末期になると徐々に動けなくなってきますが、身体はやせていくため床ずれが起きるリスクが高まります。そのため身体の向きを変える等のケアも必要になってきます。

膵臓がんと診断された場合、進行が早いため、診断されてからみるみるうちに弱ってきてしまうことも多いので、まだ歩けるうちに患者さんがやりたいことなどをやっておく、会いたい人に会っておくなども良いかと思います。また、早めに介護などの手続きの準備だけでも行っておくことも重要です。

ガンが進行し症状が進んでくると、ケアを行う家族に負担を伴うことも多く、時間とともに家族も疲弊してくることが多いのが現状です。そのため、介護サービスなどの頼れるものに頼る、その準備を行っておくことは重要になってきます。

ガン末期では患者さん本人の気持ちに寄り添って、共に過ごす時間を作ることが一番大切です。なので、周りの家族が元気に最期まで一緒に居られることが重要なのです。

鎮痛, 鎮静 - 膵臓がん

鎮痛, 鎮静 - 膵臓がん

ガンが進行すると痛みはどうしても出てきます。

痛み自体は麻薬を含めた痛み止めを調整することで抑えていきます。効果は痛みがなくなる方から少し残るものの生活に支障なく暮らすことができる、夜は十分眠れるという方まで様々です。

痛みが良くならない方については、痛み止めを増やしたり種類を変更したりして対応していきます。ただし、痛み止めを変更もしくは量を増やした場合、ひどい吐き気や下痢、体のだるさなどの副作用が出ることもあります。そのため痛み止めは効果と副作用を天秤にかけながら調整していくことになります。

吐き気や下痢などで動けない、食事ができない、痛み止めを飲む前よりも体調が悪くなった等の状況であれば主治医に相談が必要です。また、痛み止めを飲んでいても痛みが治まらなくなっている、頓服の回数が増えてきている等があれば、痛みが抑えきれなくなっている可能性があるため、こちらも主治医への相談が必要となってきます。


[鎮静について]

最終的には痛み止めだけでは痛みを取り切ることができず、薬で眠ること、眠らせることで痛みをわからなくする方法もあります。このように薬で患者さんを眠らせることを「鎮静」と言います。患者さんが苦しんでいるのがかわいそうだからと鎮静を希望される方もいますが、鎮静を行った場合には、それ以後、目覚めてコミュニケーションをとることはできなくなります。

大前提として、鎮静を行うには、本人の意思、希望である必要があります。苦しむのがかわいそうだからと、ご家族のみの希望で処置が進むことのないよう、本人はもとより、医療者ともよく相談をしながら慎重に決めていく必要があります。

ガン末期になると痛みが強くなりますが、そのほかにも意識がもうろうとすることがあります。この状態では患者さんは痛みで苦しんでいるにも関わらず、コミュニケーションがうまく取れずに、本人の希望がわからないということもありますので、あらかじめ患者さん本人と、どうしたいか話し合っておくことが重要です。

膵臓がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.