医師 M.Ozawa (MD)
専門分野は泌尿器科。大学病院や基幹病院で泌尿器科診療をこなす傍ら、泌尿器がん、尿路結石、尿路感染症を中心に、手術や化学療法などの学会発表や論文執筆も行い精力的に活動 - 男性
腎臓がん(腎細胞がん)
Kidney cancer(renal cell carcinoma)
もくじ一覧

病気が辿る経過 - 腎臓がん(腎細胞がん)

病気が辿る経過 - 腎臓がん(腎細胞がん)

腎がん(腎細胞がん)の治療には、手術療法と薬物療法があります。

手術療法は根治治療であり、転移のある症例や、腎臓に隣接する臓器へ広がる進行がんなど、根治が難しい症例に対しては薬物療法が適応となります。

転移のある症例や再発した症例は、治療を行っても、約40%の方が亡くなっているとされています。完治は難しく、がんの勢いや進行を抑えることを期待して薬物療法を行います。腎がんの薬物療法は、主に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤を使用します。がんが進行すると、がんによる全身症状、がんの転移や広がりによる様々な症状が出現するため、そちらに対して処置や投薬を行います。

腎臓がん
腎がんは、腎臓の細胞がガン化したもので腎臓がんとも呼ばれます。このうち、腎実質の細胞がガン化したものを「腎細胞がん」と言います。腎がんの大半が腎細胞がんであり、一般的に「腎がん」とは腎細胞がんのことをいいます。同じ腎臓にできるがんでも、尿の通り道である腎盂の細胞がガン化したものを「腎盂がん」と呼びますが、腎細胞がんとは区別されます。腎細胞がんと腎盂がんでは、がんの性質や治療法が異なるからです。
分子標的薬
がん細胞増殖に関わるタンパク質を標的にしてがんを攻撃する薬
免疫チェックポイント阻害剤
人が元々もつ免疫機能ががん細胞を攻撃する力を強める薬

終末期の特徴 - 腎臓がん(腎細胞がん)

終末期の特徴 - 腎臓がん(腎細胞がん)

薬物療法でもがんの進行が抑えられない場合、がんによる全身症状や苦痛を緩和するための治療が主体となります。がんによる全身症状としては、食思不振(食欲低下・食欲減退・食欲不振)や体重減少があり、症状を和らげる目的でステロイド剤や漢方薬を使用します。がんによる痛みに対しては、鎮痛剤投与や症状を和らげる目的で放射線照射を検討します。他にも、がんの進行や転移に伴って出現する症状を和らげる目的で処置や投薬を行います。医師や看護師に加え、緩和ケアの専門家など多職種が協力して、肉体的・精神的苦痛を取り除き、残された人生を有意義なものとするためのケアを重点的に行います。

諸症状 - 腎臓がん(腎細胞がん)

諸症状 - 腎臓がん(腎細胞がん)

腎がんは初期の段階では、自覚症状はほとんどありません。そのため、健康診断での腹部超音波検査や、他の病気が疑われた際に行うCT検査やMRI検査などで、偶然に発見されることがほとんどです。

がんが進行すると、がんの広がりにより様々な症状が出現します。腎臓は血流が豊かな臓器であり、転移しやすく、転移先の臓器によって、非常に多彩な症状が生じます。

がんが大きくなると、血尿が出たり、背中・腰の痛みが出たり、がんが腹部のしこりとして触れることもあります。がんにより血流が妨げられ足のむくみが出たり、腸が圧迫されると、吐き気や便秘が生じたりすることもあり、腸閉塞や腸管損傷が生じることもあります。腎臓に隣接する膵臓や肝臓へも広がることがあります。

転移に伴う症状として、肺への転移では、胸の痛み、咳、血痰、呼吸苦が生じることがあります。骨への転移では、骨の痛み、骨折などが生じます。腎がんでは、脊椎や肋骨、大腿骨など体幹に近い骨への転移が多いとされています。脊椎への転移では、がんが脊髄へ広がり、脊髄損傷をきたすこともあります。脳への転移では、頭痛や手足の麻痺やけいれんなどが生じることがあります。肝臓への転移では、足のむくみや腹水が生じることがあります。がんが全身へ広がると、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状があらわれます。

また、薬物療法中にも、様々な副作用が生じることが多いです。副作用として、疲労感、吐き気や下痢などの消化器症状、食欲減退、発疹や皮膚の痒みなどがあります。稀ですが、免疫の活性化に伴う副作用として、甲状腺機能低下症や間質性肺炎のほか、糖尿病や重症筋無力症、大腸炎などが生じることも報告されています。

甲状腺機能低下症
甲状腺の働きの低下により甲状腺ホルモンが不足し心や体の全身に様々な症状が出現します
間質性肺炎
原因はさまざまですが肺の壁が炎症や損傷などから壁が厚くなったり硬くなったりすることにより肺の機能が阻害される病気です

痛みや苦しさが出やすい所 - 腎臓がん(腎細胞がん)

痛みや苦しさが出やすい所 - 腎臓がん(腎細胞がん)

腎がんは、転移することが多く、転移先の臓器によって様々な症状が出ます。肺への転移では、呼吸苦を訴える方が多いです。症状を和らげる目的で、医療用麻薬を使用する場合があります。骨への転移では、転移した部位の骨の痛みを訴える方が多いです。痛み止めの調整や痛みを和らげる目的で放射線照射を行う場合もあります。脳への転移では、頭痛や吐き気、けいれんなどを起こすこともあります。こちらへも、症状を和らげる目的で、放射線照射やステロイド薬、抗けいれん薬を投与する場合があります。肝臓への転移では、むくみや腹水が生じることがあり、利尿剤の投与や腹部に針を刺して、腹水を抜く処置を検討します。

死期が近い兆候 - 腎臓がん(腎細胞がん)

死期が近い兆候 - 腎臓がん(腎細胞がん)

腎がんだけでなく、がん一般に言えることですが、がん患者は亡くなる2-3か月前までは、特に大きな支障なく日常生活を送ることが多いです。

亡くなる1か月前ころから、急に食欲不振、倦怠感、呼吸困難感、体重減少などの全身症状が出現し、急速に全身状態が低下することが多いです。

その後、日中眠っている時間が長くなったり、昼夜逆転してしまい夜中に大声を出す、仕事や外出に行こうとしたりするなどの意識障害が増加し、亡くなる数日前には、意識状態の悪化や死前喘鳴が見られます。あえぎ呼吸や下顎呼吸は死戦期呼吸と呼ばれ、この呼吸に移行すると数時間後に亡くなる可能性が高いとされています。

睡眠障害
日中眠っている時間が長くなり、昼夜逆転してしまうこともみられます
意識障害
夜中に大声を出したり、仕事や外出に行こうとしたりすることがあります
意識状態の低下
問いかけても反応が見られないなど意思疎通が難しくなります
死前喘鳴
唾液や気道からの分泌物が貯留し、呼吸の際にゴロゴロと音がすること
あえぎ呼吸
深く息を吸い込んだ後に短く息を吐き、しばらく呼吸をしない状態が続くこと
下顎呼吸
顎のみを動かして空気を飲み込むような呼吸

ケアのコツ(要所) - 腎臓がん(腎細胞がん)

ケアのコツ(要所) - 腎臓がん(腎細胞がん)

前述の通り、がん患者は最後の1か月で急激に全身状態が悪化することが多く、ご家族の方も混乱し受け入れられないことも多いです。最期は、意識状態の悪化もあり、満足に意思疎通ができないことも多い為、日ごろからコミュニケーションをとり意思疎通をはかり、急に容体が悪化した時はどうするかなど、本人の意思確認が必要なことについては、あらかじめ相談することが重要です。

腎がんでは、 骨の転移によっておこる骨折や脊髄損傷、脳への転移による手足のまひが出現し、急に動けなくなり車椅子や寝たきりになる方もいますので、家屋の改修、車いすや電動ベッドのレンタルなどが必要になる場合もあります。動けなくなると、床ずれの予防やケアのために、定期的に体の向きを変えたり、傷の処置が必要になったりします。本人は勿論ですが、家族も精神的・肉体的・経済的負担が大きくなりますので、少しでも負担を減らすべく、福祉サービス利用を検討すべきです。末期がんであれば、早めに介護申請が通ることが多いですが、どうしても待期の期間が生じ、その間は家族が対応することになります。がんが進行したり、末期がんの診断がついたら、介護申請の要否や利用できる福祉サービスの有無などを、主治医や病院のソーシャルワーカーに相談することが重要です。比較的若い方も腎がんになることもあり、がんによる肉体的苦痛に加え、仕事や将来に対しての不安など精神的苦痛を感じる方が多いです。がん治療を行っている病院内には、お金や仕事について相談可能な、がん相談支援センターもあります。家族内だけで抱え込まず、医療機関や介護・福祉ケアを適切に利用することで、患者本人と家族も共に質の高い生活を送ることが重要です。

鎮痛, 鎮静 - 腎臓がん(腎細胞がん)

鎮痛, 鎮静 - 腎臓がん(腎細胞がん)

腎がんが転移した骨は、骨折やがんによる痛みを引き起こします。骨以外の臓器やリンパ節に転移しても、がんによる痛みを引き起こすことがあります。痛みの感じ方は人それぞれであり、鎮痛薬使用への抵抗があり、敢えて我慢する方もいます。鎮痛剤を使用しても、生命予後には関与しませんし、痛みを我慢するよりは、しっかり鎮痛した方が日常生活の質も向上します。痛みの程度に関わらず、患者自身が苦痛に感じる痛みがあれば、主治医に相談し積極的に鎮痛剤を使用すべきです。

がんによる痛みに対しては、歯科や整形外科で処方される様な鎮痛剤から開始し、症状に合わせて段階的に調節・強化を行っていくのが一般的です。疼痛のコントロールがつかない場合には、医療用麻薬を導入します。医療用麻薬の用い方には、経口剤、貼付剤、注射製剤があります。また、疼痛を緩和する目的で放射線照射も検討されます。医療用麻薬には、呼吸苦を改善させる作用もありますので、肺への転移により、呼吸苦症状が出ている患者にも使用されます。

各種鎮痛剤を用いても痛みがコントロールできない場合や、意識状態が悪化すると、大声をあげて苦しんだり、体を激しく動かして苦しんだりすることがあります。

この様に客観的にも患者本人の苦痛が非常に強い場合には、薬剤で患者を眠らせることもあり、これを鎮静といいます。緩和医療分野の研究では、がん終末期に鎮静を行っても、余命が短くなるというデータはありません。しかし、薬剤は点滴で持続的に投与するため、一度鎮静すると、以後は目覚めてコミュニケーションをとることは難しくなります。鎮静を検討する時点で、患者は意思疎通ができず、本人の意思確認が困難になっていることが多いです。本人とコミュニケーションが取れる内に、終末期はどうするかなど、本人の希望や意思を確認した上で、家族と主治医間で鎮静の要否を相談・検討することが重要です。

腎臓がん(腎細胞がん)
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.