- 家族で看取る「穏やかな最期」 -
~ 家族にできる5つの事 ~
Five things your family can do
看護師 佐藤礼
訪問看護歴11年。持ち前の明るさと優しさで多くの方々の最期を支えてきたスペシャリスト。
「できるだけ穏やかな最期を迎えてほしい」そばにいるご家族は、そう強く願うことかと思います。でも「何から準備をしていいのか分からない」と、疑問や不安を抱えた時に、事前に知っていると安心につながることがありますので1つずつお伝えしていきます。
Point 1
必要な情報を集める
~からだの変化や療養のための情報~
どこで過ごすか、どんな環境で過ごすのかを少しずつイメージするために、まずは下記の項目を参考にしながら、必要な情報を集めましょう。
余命や予後について主治医に聞く
主治医から「積極的な治療はむずかしい」と説明を受けた場合、本人、家族ともに大きなショックを受けることと思います。
つらい状況ではありますが、残された時間をより良いものにするために、ぜひ主治医に何点か確認をしてみてください。
余命はあとどれくらいの期間と予測されるか
今後、どんな症状が出ると予測されるか
自宅で過ごすことは可能だと思うか , etc.
インターネットで情報を集める方法もありますが、ネット記事は多くの人に伝わるようにターゲットを広げているため、知りたい情報にたどり着くまでに時間がかかります。
情報を集めるだけで疲弊してしまったり、不安が増してしまうことにもなりかねません。
まずは、本人の病気についてよく知っている主治医から、情報を聞くことをオススメします。
セカンドオピニオンも一つの方法
主治医と色々話をしてみたけれど、主治医からの説明に納得がいかない、他にも積極的な治療があるのではないか?と感じる場合もあるかと思います。
ぜったいに主治医の意見だけで今後を決めなければいけない、というわけではありません。
セカンドオピニオンとして、他の医師から意見を聞くことも一つの方法です。
相談窓口を知る
どこで療養するのかを検討したい場合、どこに相談に行けばいいのか分かりにくいと感じる方も多いかと思います。
ここでは状況別に相談窓口をお伝えします。
入院中の場合
まずは、入院している病棟の看護師に相談してみましょう。もちろん主治医でも問題ありませんが、ゆっくりと時間かけて話せる機会が少ないかと思いますので、看護師の方が尋ねやすいかと思います。
「自宅で過ごしたいと思っている。だけど、まだ答えが出ない」など、悩んでいる段階でも 大丈夫です。例えば、医療者には、自宅療養を考えている、と意思表示をしてくれることで、より良い方法について一緒に考えることができるのです。
また、退院に不安を感じる場合には、まず外出、外泊を経験する、という方法もあります。段階的に在宅療養をイメージし、本当に自宅に帰るのかどうかを最終的に決めることもできます。
自宅で療養することを希望した場合、在宅医や訪問看護師などの療養をサポートしてくれる専門家が必要になります。
その調整をしてくれるのは、病院の地域連携室という機関のスタッフです。病棟の看護師から地域連携室に連絡が行き、いっしょに自宅でのサポート体制について考えてくれます。
施設入所中の場合
現在、介護施設に入所中で自宅に帰ることを望む場合は、「生活相談員」もしくは「ケアマネージャー」に相談してみましょう。
担当の介護スタッフや看護師に伝えるのも悪くはありませんが、二度手間になったり、うまく情報が伝達されない場合もあるので、調整の役割を担っている生活相談員やケアマネージャーに直接話すのが良いでしょう。
すでに自宅療養をしている場合
外来での治療を続けていたけれど、積極的な治療はむずかしい、と言われた場合、もしくは今後、受診するのが難しいことが予測される場合は、早めに在宅医や訪問看護師などの在宅療養をサポートしてくれる専門家とつながっておきましょう。
総合病院を受診している場合は、主治医や外来の看護師に相談する、または地域連携室へ相談してみましょう。
療養先別に費用を比較検討してみる
療養先と言っても、自宅や介護施設、緩和ケア病棟などのいくつかの場所があります。
場所によってかかってくる費用もさまざまです。
療養先を決断する材料として、参考までにおおよその費用をイメージしておくのも良いかと思います。
Point 2
~本人に「どうしたいのか」「どう過ごしたいか」を聞く~
残された時間を、よりその人らしく過ごすための第一歩は、本人が「どうしたいのか」その人の声で、しっかりとすくい上げることです。
難しく考えなくて大丈夫です。
面談のような堅苦しい雰囲気で聞く必要はありません。
ふだんの会話の中で聞ける話こそが、本人の大事な価値観を聞けるチャンスです。
聞けることから、少しずつ聞いてみてくださいね。
どこで最期を迎えたいか
「最期は自宅で過ごしたい」「家族に介護負担をかけたくないから施設に入りたい」など、本人の思いが何かしらあるはずです。
病状によっては、本人の希望に沿いにくいこともあるかもしれませんが、まずは本人の口で、本人の声で、最期を迎えたい場所を聞いてみてください。
したい事・行きたい場所・会いたい人・食べたいもの
これは、すべてを一度に聞かなくても大丈夫です。
思いついた時やふとした瞬間に「何かやりたいことはある?」「ぜったいに行きたい場所はないの?」など、気軽に尋ねてみてください。
もしかしたら「海外旅行に行きたい」「結婚式を挙げたい」など、予想外の願いが聞けるかも知れません。
本人に紙に書き出してもらい、やりたいことリストをひとつひとつ叶えていく、という方法もステキだと思います。
どれだけ予測していたとしても、病状の変化は突然訪れることがあります。
急な変化に冷静に判断できなかった、判断を後悔している、というケースは少なくありません。
本人と意思疎通が取れる時に、少しでも本人の言葉で話し合っていることが、悔いの少ない最期の時間につながります。
心肺蘇生は望むか
とても聞きにくい内容かと思いますが、最低限これだけはぜひ、本人の言葉で確認してください。
なぜなら、心肺蘇生が必要な状況は「急に」訪れることがほとんどだからです。
誰しも、急な心肺停止に冷静でいられる、ということはとても難しいです。
どこで心肺停止が起きるかによりますが、病院であれば命を救うことが第一優先となりやすいです。
そのため、心肺蘇生として心臓マッサージや、人工呼吸器を装着することになり、その後も人工呼吸器から離脱できない、という可能性もあります。
もし人工呼吸器につながることが本人の望みかがわからない場合、見ている家族も「これでよかったのか」と悩んでしまうかも知れません。
聞くことはとても勇気がいるかと思いますが、ぜひ話す時間を作ってみてください。
食べられなくなった・飲めなくなった時
残念ながら、死に向かう過程では「食べられなくなる」「飲めなくなる」時期がかならず訪れます。
その時の対応としては、胃ろうを入れる、中心静脈栄養カテーテルを作って点滴をする、血管から針をさして点滴をする、などの方法があります。
「口から食べられないなら何もしなくていい」など、聞けるようでしたら本人の希望を聞いてみてください。
痛みが強くなった時
特にがんを患っていると、症状として痛みが強くなる可能性があります。
痛み止めに麻薬などを使った場合、痛み止めが増えていくことで寝ている時間が増えることもあります。
そのため、寝ている時間が増えることで、家族と話す時間が減ってしまう可能性も出てきます。
「意識が落ちてもいいから痛みを取ってほしい」など、もし本人の希望があれば聞いてみましょう。
はじめから全部を決めなくて大丈夫
いつ、どんな症状が出るのかは、個人差が大きいです。
ですので、前もって家族だけで対応を考えなければいけない、と負担に思わないでくださいね。症状が起きた都度、医療者と相談しながら、ベストな方法を考えていきましょう。
Point 3
病状や予後、本人の希望をふまえて、「どこで」「どのように過ごすのか」を決めていきましょう。
この項では在宅療養をイメージして記述していきます。
まずは本人の希望する過ごし方を、家族みんなで共有していきましょう。
そこから、本人の希望を叶えるのは可能なのか、本人の希望の中で尊重できる部分はどこか、などを掘り下げていきましょう。
大事なのは、「家族みんなで目標を決めること」です。
目標を見失うと、実際に療養生活が始まったときに、家族それぞれの気持ちにズレが生じて、不満につながりかねません。
ぜひ1人で決めなければいけない、と思わず、他の家族とも話をしてみてください。
在宅療養の期間は、長いと年単位になることもあります。
そのため、誰かひとりだけの介護負担が強くなると、途中で燃え尽きてしまう可能性もあります。
前もって、家族の中で役割を分担しておくことは、考え方のひとつです。
たとえば
キーパーソンを誰にするか
誰がどの曜日、時間帯に関わるのか(平日、土日、朝、昼、夜など)
受診の同行、往診時の立ち会いは誰がするか
この役割分担の中で、特に主治医からの説明を聞く人はキーパーソンにする、などできるだけ1人に決めておいた方が良いでしょう。
主治医からの説明を聞く人が複数になってしまうと、伝言ゲームのようになったり、意味合いが違って伝わることもあります。
それが結果的に、より良い意思決定にゆらぎが生じてしまう原因になってしまいますので、あらかじめ決めておくと良いと思います。
前述の「いざという時はどうするか」の内容について、本人の希望を分かる範囲で構いませんので、家族内で共有しておきましょう。
答えが出ていなくても構いません。
いざという時、その瞬間に居合わせて選択を迫られた家族だけが負担に感じないためにも、出来る限り家族内で情報を共有し、行動の方向性を決めておくと良いかと思います。
Point 4
療養する先が本人を含めた家族間で決まったら、主治医や看護師、ケアマネージャーなどの専門家に具体的に相談していきましょう。
相談するタイミングは、イメージがはっきりできない、曖昧な状態でも大丈夫です。
専門家がいっしょにイメージを整えていってくれます。
主治医や看護師、ケアマネージャーなどの専門家に、希望する療養の内容を伝えましょう。
施設や病院の場合には、希望に沿った今後の流れを説明してくれるはずです。
一方もし最期のその時まで自宅に居たいと希望される場合、住んでいる地域に看取ってくれる医師がいるか、夜間も対応してくれる訪問看護ステーションがあるか、などの情報も聞いておきましょう。
地域によっては夜間対応ができる専門家が不足していることもあるので、在宅療養を叶えるために必要な情報となります。
前項「いざという時はどうするか」について、医療者とも情報共有をしておきましょう。
既に家族で決定していることは医療者に伝え、疑問や不安があれば遠慮なく医療者に質問してみましょう。
医療者としては、本人と家族の希望を聞くこと、疑問や不安を聞くことは、本人や家族を知ることができるきっかけになります。
本人や家族の思いを知ることで「よりその人らしい時間とは何か」を一緒に考えることに繋がりますので、ぜひ言葉に出していってくださいね。
Point 5
~本人がしたい事・家族がしてあげたい事~
在宅療養がスタートしたら、「したいこと」「してあげたいこと」を少しずつ、叶えられる順に叶えていきましょう。
本人が「したいこと」は、ぜひ専門家にも伝えてください。
医療者は伝えてもらうことで「どうやったら叶えられるのか」を具体的に、一緒に考えることができるからです。
こんなことはムリなんじゃないか、と諦めないでください。
思いを口にすることで、意外な願いを叶えるアイディアが思い浮かぶかも知れません。
ぜひみんなで、一緒に考えていきましょう。
本人の「したいこと」に寄り添うことはとてもステキなことです。
ですが、ぜひ家族の「してあげたいこと」も大切にしてください。
家族のしてあげたいことも「ムリかも......」と決めつけずに、専門家に伝えていきましょう。
「してあげたい」をひとつずつ叶えていくことも、家族がより悔いのない時間を過ごすために大切なことです。
また、不安や迷いも溜め込まずに専門家に伝えて大丈夫です。
溜め込まないことが、より良い最期の時間につながります。
「自分たちで決めた療養先だから」「家族の皆で決めたことだから」といって、何が何でも最期まで意思を突き通さなければいけない、ということは決してありません。
病状や介護状況によっては、今の療養先から自宅、病院、施設入所のそれぞれに変更する方はたくさんいらっしゃいます。
迷いや不安が生じたら、遠慮なく専門家に相談して大丈夫です。
最期の時間の過ごし方に、正解はありません。
みんなで意見を出し合いながら、より良い最期の時間を選んでいってくださいね。