医師 M.Hori (MD)
専門分野は放射線科・内科。平日は放射線科医として病棟に勤務し、休日は訪問診療を通して、地域に根差した医師としても活躍。さまざまな進行度合いの病態を診ることも多く、終末期にある患者さんの診療にも日々携わっている - 女性
悪性リンパ腫
Malignant lymphoma
もくじ一覧

病気が辿る経過 - 悪性リンパ腫

病気が辿る経過 - 悪性リンパ腫

まずは、悪性リンパ腫とはどのような病気なのか、ご説明します。悪性リンパ腫は、白血病などと同じく、血液の癌の一種です。血液の成分の一つであるリンパ球が癌化し、異常に増殖する病気です。リンパ球は、主にリンパ組織や、血液にのって全身の臓器に存在するため、悪性リンパ腫を発症すると、リンパ節や、臓器の中にリンパ球が集まった腫瘍を形成します。

そして、その癌化したリンパ球が増殖した結果、身体への影響としては主に、免疫機能の低下と、リンパ球によって形成された腫瘍による臓器障害が出現します。正常なリンパ球は免疫機能に関与しており、細菌やウイルスなどを排除する役割があります。リンパ球が増殖したら、免疫機能が上がりそうと思われるかもしれませんが、癌化したリンパ球は正常の働きはせずに、むしろ、正常のリンパ球が生きるスペースなどを奪い、結果的に免疫機能は低下してしまいます。また、悪性リンパ腫は、リンパ節を含む、全身どの臓器にも出現し、その臓器によって出現する症状が異なります。

悪性リンパ腫の主な治療方法は抗がん剤を用いた化学療法が基本となります。一言に悪性リンパ腫といっても、実は70種類以上あるといわれています。それぞれのリンパ腫によって進行するスピードは様々であり、進行が速いものを悪性度が高い、ゆっくり進行していくものを悪性度が低い、と表現します。これは、治療がうまくいかなかった場合の予後の長さにも関連してきます。

完治が見込めなくなった場合、血液中や臓器で癌化したリンパ球は、悪性度に従ったスピードで増殖し、徐々に正常な臓器の機能や、免疫機能が下がっていきます。そして、最終的には腫瘍による多臓器不全や、感染症により息を引き取られる方が多いとされています。

終末期の特徴 - 悪性リンパ腫

終末期の特徴 - 悪性リンパ腫

化学療法を基本とした治療が行われ、それでも癌の進行を止められなかった場合は、苦しい部分や痛い部分の症状を緩和していく、緩和ケアが治療のメインの目的になっていきます。悪性リンパ腫の終末期では、約半数が腫瘍の増殖により命を落とし、残りの半数は感染症などにより命を落とすといわれています。腫瘍の増殖による症状や病気によっておこる身体への変化などは、臓器によって異なります。消化管にできた悪性リンパ腫であれば、腫瘍が大きくなるとそこで食べ物や消化液が通過できなくなったりします。その時にはステントという人工のチューブを入れて、内腔を保つ処置を行ったりします。その他にも、肺や脳に腫瘍ができた場合は、呼吸困難や、運動機能の低下、意識レベルの低下などが起こってくると予想されます。

感染症に関しては、前述したように、悪性リンパ腫では免疫機能の低下が起こり、感染症が重症化しやすくなります。また、免疫機能が正常な人であれば病気を引き起こさないような弱い細菌やウイルスにも感染してしまい、重症化してしまうことがあります。

諸症状 - 悪性リンパ腫

諸症状 - 悪性リンパ腫

多くの患者さんでみられる症状は、首やわきの下、足の付け根など、表面から触れることのできるリンパ節の腫れです。リンパ節の腫れは、ゴム玉くらいの柔らかさといわれており、押しても痛みがないことが特徴です。

リンパ腫が臓器に広がった場合、その臓器に特有の症状が出現します。全身どの臓器にも出現する可能性があるため、すべての症状をお伝えすることは難しいのですが、頻度として高い臓器について、お話します。

脳に出現した場合
頭痛や精神症状、麻痺やけいれんなどが起こります
肺に出現した場合
呼吸困難感や咳などが考えられます
胃や腸管に出現した場合
下痢や腹痛、消化不良、血便などが挙げられます
肝臓や脾臓に出現した場合
お腹の膨らみとして感じられる場合があります
全身の症状として出現するもの
激しい寝汗、体重減少、長期間持続する発熱などが挙げられます

痛みや苦しさが出やすい所 - 悪性リンパ腫

痛みや苦しさが出やすい所 - 悪性リンパ腫

悪性リンパ腫の進行に伴い、痛みや苦しさが出やすい原因としては、腫瘍の増殖による周囲の臓器の圧迫が考えられます。例えば、首周りのリンパ節が腫れた場合、気管を圧迫し、息苦しさにつながる可能性があります。また、お腹の中のリンパ節が腫れた場合、消化管を外から圧迫し、お腹の張りや嘔吐につながったりすることが考えられます。

もう一つ、感染症による症状が出た場合、患者様にとっての負担は大きいものと思われます。悪性リンパ腫自体でも発熱を引き起こしますが、感染症を合併した場合は、それに伴う高熱や節々の痛みが出現します。肺炎や髄膜炎などを起こした場合は、呼吸困難や頭痛などが出現し、患者様にとって辛い症状となることが予想されます。

死期が近い兆候 - 悪性リンパ腫

死期が近い兆候 - 悪性リンパ腫

 悪性リンパ腫が進行し、死期が近くなった場合、腫瘍の増殖にエネルギーが使われてしまい、

体力は低下し、日中の活動量が徐々に少なくなってきます。また、腫瘍による臓器障害がおこることにより、食事や排泄、呼吸などが上手く行えなくなってしまいます。食事量が減った、下痢や便秘が続いている、呼吸の回数が増え息苦しそうに見える、などがみられましたら、死期が近づいている可能性があります。

ケアのコツ(要所) - 悪性リンパ腫

ケアのコツ(要所) - 悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は、胃癌や肺癌などの臓器別の癌とは違い、全身に腫瘍を形成する可能性がある癌です。そのため、出現する症状は様々であり、症状の予測がつきにくいと思われます。周りの方々は、全身を観察し何か変化を感じた場合は、小さなことでも主治医に相談することをおすすめいたします。

また、悪性リンパ腫の患者様をケアする上で、感染症の予防は非常に重要と考えられます。感染症の多くは、接触や飛沫により感染します。患者様の近くでケアを行うときは、できれば相互にマスクを使用し、患者様を触る前と後の手洗いや消毒は必ず行って頂きたいです。また、周囲の方に発熱などの風邪症状があらわれたときは、できるだけ早く、患者様との接触を避けていただく方が良いと思います。しっかりと対策をしていても、生活していく中で感染症を完全に防ぐことはできません。感染してしまった時には早期に感染症の兆候に気が付き、抗生剤などで治療をできるだけ早く開始することが重要です。ここで一つ気を付けて頂きたいのが、身体の痛みなどに対して、ロキソニンやカロナールを日常的に使用している方は、感染症の発見を遅らせてしまう危険性があります。これらの薬は、消炎鎮痛剤といわれ、痛みをとる作用とともに、解熱作用ももっています。そのため、感染症にかかっても熱が隠されてしまうことがあるのです。このような患者様の場合は、倦怠感や咳、頭痛などに気がついた際に、感染症の可能性を考え、早めに主治医に報告することが非常に重要です。

鎮痛, 鎮静 - 悪性リンパ腫

鎮痛, 鎮静 - 悪性リンパ腫

<鎮痛に関して>
癌の進行に伴い、痛みや倦怠感などは徐々に強くなってくると思われます。そして、痛みは本人しか感じることができないため、ケアしている周囲の方々が痛みを把握するのは、時に難しいことがあるかと思います。痛みのスケールというのが、いくつか存在しますので、インターネットなどで「痛み スケール」のように入力し調べていただくと良いかと思います。痛みを5段階や10段階、顔の表情などで患者様に教えてもらい、痛みの定量化を図ったものです。これを活用することで、痛みが10段階中3以上なら鎮痛薬の頓用を使用する、7以上なら主治医に連絡しよう、などとある程度目安を作ることができます。もう一つ、痛みの程度を把握する指標として、脈拍数や血圧などのいわゆるバイタルサインというものが有用です。痛みが強い時には、人は緊張状態になり、脈拍数や血圧が普段より高くなります。このように脈拍数や血圧に影響が出ている場合は、痛みの程度がかなり強いことが多いですので、一度主治医への連絡を検討することをおすすめいたします。 

<鎮静に関して>
鎮痛薬のみでは痛みのコントロールがつかない、息苦しさなどが辛い、などの苦痛がある場合、少し意識を朦朧とさせたり、眠っている状態に近くしたりすることがあり、これを鎮静といいます。鎮静に用いられる薬は、麻薬であることが多く、医師免許に加え専用の免許を持っている医師しか処方および患者様に使用することができません。そのため、鎮静の深さなどは患者様や周囲の方々が調整するものではなく、医師が決めるものになります。

周囲の方々が鎮静に関わるタイミングは、鎮静を行う前の意思決定の際だと思われます。患者様ご本人の意識がはっきりしている場合は、患者様の意思がもっとも尊重されます。しかし、患者様の意識がはっきりしていない場合は、周囲の方々の意思が重要になってきます。鎮静をかけると患者様との意思疎通は難しくなりますので、周囲の方々のお気持ちには辛いものもあるかと存じます。医療知識や経験を積んだメディカルスタッフも含めた話し合いをしていただき、決めていただければと思います。もし可能であれば、患者様の意識がはっきりしていて、自分の意思を伝えることができるうちに、苦しさを取り除くことを優先順位の上位にもってくるのか、それとも自分らしく自分で意思を決定することを優先させてほしいのか、などについて話合っておくと、周囲の方々の指針となると思います。ただ、それはあくまでその時点の患者様の気持ちのため、終末期に近づくにしたがって、想像よりも苦痛が強くなる場合があり、その時は患者様を想う気持ちを大切にして、柔軟な対応が必要と考えます。

悪性リンパ腫
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.