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08/05 (月) 11:25更新

口からものが飲み込めなくなったとき

When you can't swallow anything by mouth
医師 N.Makishi (MD)
神経内科専門医。認知症や神経難病にも明るく、多くの診療を行ってきた。本人の意思の尊重の啓発や指導にも精力的に尽力。


最期のときを向かえる過程で、口からものが飲み込めなくなる日がきます。

そのときどうするのか、あらかじめ考える参考になれば幸いです。

生きることに必要な水分や栄養を口から摂るというのはイメージしやすいと思います。しかし、この経路は本人の体力や認知力、飲み込む能力に依存するため、この内のどれかが低下するとできなくなります。

口から水分や栄養を摂れなくなった時に、それを寿命とするかはご本人が自分のいのちをどうしたいかという観点から決めることです。

もし、ご本人が意思表示をできない場合は、ご家族の方が「ご本人ならどうしたいか」を考えて代弁する必要があります。

1・口から物が飲み込めなくなった時の選択肢

口からものを飲み込むということは、当たり前のことですが生きることに必要な水分や栄養を口から摂るということです。

つまり、口からものを飲み込めなくなったとき、生きることにひつような水分や栄養をどうするのかを考える必要があります。

生きることに必要な水分や栄養を摂る経路としては、口からという自然な経路と、何らかの別の経路を使う医学的処置が必要な経路の二つに大きく分けられます。

主な代替栄養摂取法とそれぞれのメリットとデメリット

経鼻胃管

経鼻胃管は鼻から胃に届くまで管を入れて、その管から水分や液状にした栄養を入れる手段です。

(胃を切除したなどの理由で胃がない方には鼻から小腸まで管を入れます)

メリットとしては管をすぐ入れることができるという点があります。しかし、その簡便さはデメリットでもあります。

なぜなら、入れた管はすぐ抜くことができるため、鼻の奥や喉の不快感のせいでご本人が抜いてしまうこともあるのです。

抜くことそのものよりも、抜いたことにより、管が中途半端なところまで上がってしまい、本来は胃や小腸に投与するものが肺に落ちてしまうことで、肺炎を起こすことが問題となります。このタイプの肺炎ではいのちが奪われることも少なくありません。

まだ喉に管が入っているため、口から飲み込むことはできなくなると考える必要があります。

基本的には一時的な手段と考えておいたほうが良いでしょう。

胃ろう

胃ろうは、お腹に直接胃につながる管(孔)を作り、そこに留め置いたチューブを使って水分やペースト状から液状にした栄養を入れる手段です。

メリットしては安定して栄養や水分、お薬の投与ができるという点にあります。また口から飲み込むこととの併用もできます。

デメリットとしては胃ろうを造る際に内視鏡による術前検査や手術が必要となること(術前検査の結果で作れない方もいらっしゃいます)の他、定期的に体の外側と胃をつなぐ管(孔)に入れているチューブの交換が必要となることがあります。尚、チューブの交換は対応してくれる訪問診療の医師もいます。

中心静脈栄養

中心静脈栄養とは主に首に太めの点滴の管を入れて、そこから点滴で水分や栄養を入れる手段です。

メリットとしては安定して栄養や水分が摂取できるという点にあります。また口から飲み込むこととの併用もできます。

デメリットとしては直接大血管に管を入れるため出血や重篤な感染症のリスクがある点、点滴ではすべての内服薬をカバーできない点、ご本人が自分で点滴の管を抜いてしまった場合大出血となりうるため基本的に手にミトンをはめるなどの抑制が必要になる点、訪問診療医を含む医療機関で定期的な管の入れ替えが必要な点があります。

抑制と定期的な入れ替えについては、点滴ポートというものを体内に埋め込むことで解決しうることもあります。

いずれも誤嚥性肺炎のリスク

どの栄養経路を選択しても、唾液などによる誤嚥は起こるため、誤嚥性肺炎を起こすリスクはあります。

2・それでも食べたい、そう言われた時は?

食べることによる喜びは人生に彩りを与えてくれます。

雰囲気を楽しみたいのか、味を楽しみたいのかで対応策は大きく変わりますが、いちばん大切なことはご本人がどうしたいのかということです。

食べることで亡くなってもいいのか、それとも同じテーブルを囲みたいのか。食べたい、には沢山の意味があります。

食べることが叶わなくても、ほんの少しスプーンにつけたその食品を舌に乗せて、その味を楽しむという技もあります。この技については、訪問してくれる言語聴覚士などのリハビリテーションスタッフや医師と行うことをおすすめします。

3・こんな時は見直しを

何度も誤嚥性肺炎を起こすようになってきたら、口からものを飲み込むことを見直す必要があります。

しかし、いきなり口からものを飲み込むことを止めることはせず、他の方法がないかぜひ模索してください。

まずは食事の柔らかさ、形を見直すことから始めてみましょう。

入院のできる医療機関などで嚥下について調べてもらうことが可能です。事前にお申し付けいただければ、言語聴覚士や管理栄養士から食事についてのアドバイスをもらうことも可能です。

有料ですが、最近では飲み込みやすい食事の宅配サービスもありますので、言語聴覚士や管理栄養士からもらったアドバイスを元にそういうものを利用することも考えてください。

食事は毎日のことです。毎日のことで頑張りすぎるより、様々なところを頼って、新しい思い出を作ったり、懐かしいお話をしたり、ご家族にしかできないことをしませんか。

4・家族にもできるケアのコツ(要所)

口腔ケアについてはぜひ言語聴覚士や歯科衛生士に来てもらって、ご本人と一緒に習いましょう。口腔ケアは誤嚥性肺炎を予防する最強の手段です。

嚥下を維持するために自宅でできるトレーニングも言語聴覚士に教えてもらって、一緒にやってみましょう。

徐々に口から水分や栄養を摂れなくなった場合、意識がすでにぼんやりしている(夢現となっている)ことが多く、空腹感などで苛まれることは少ないとされています。

ただし、口の乾きは感じる方もいらっしゃるので湿らせたガーゼなどで口の中を湿らせてあげるなどのケアは口腔環境の維持、ひいては誤嚥性肺炎の予防のために是非行ってください。

いのちをつなぐために、当たり前にように行っていた「食べる」「飲む」ができなくなる日はいつか来ます。

そのときまでに、どうするのかをご本人とよく話し合ってください。

医師 N.Makishi (MD) = 文