医師 A.K-Okamoto (MD)
専門分野は消化器内科で主に胆膵をメインとしながら、救命センターでの集中治療や3次救命での従事経験も豊富な救急専門医としても活躍。どこまでも分かり易く真の優しさが伝わる医療記事の執筆も評判 - 女性
肝臓がん
Liver cancer
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病気が辿る経過 - 肝臓がん

病気が辿る経過 - 肝臓がん

肝臓がんは、はじめはあまり症状が出ず、ある程度進んだ段階で症状が出てくることが多い病気です。その理由としては、肝臓は一部の働きが悪くなっても、残りの正常組織である程度機能しなくなった部分の働きを補うためです。そのため、肝臓の働きがある一定レベルまで悪くならないと症状が出にくいのです。

ガン自体が小さく数が少なく、肝臓の機能がある程度残っている場合は、ガンを針で刺して焼いてしまう治療や、ガンを栄養する血管を詰めたり、抗がん剤を流したりといった血管内治療、外科手術を行えます。ただし、肝臓がんが進行していた場合や、もともと肝臓の機能が落ちていた場合などはこれらの治療はできなくなります。肝臓は腎臓など他の臓器と違い、なくては生きていくことができない重要な臓器です。一時的であればともかく、長期的に医療機器などで肝臓の代わりをすることはできません。そのため、ガンとその周囲の組織を無くした後でも、ある程度は肝臓の機能が残る状態でないと治療はできないのです。

このように早めに見つかった肝臓がんに関しては治療法がありますが、肝臓がんの初期では自覚症状が少ない場合も多く、見つかった時には肝臓の大部分がガンに置き換わってしまっている、もしくは他の臓器に転移してしまっていることも多くあります。その場合は抗がん剤などの薬で治療を行うこともありますが、薬にも副作用があり、状態が悪いと治療そのものに耐えることができない場合もあります。その場合はそれぞれ出てくる症状に対する治療を行っていくことになります。

終末期の特徴 - 肝臓がん

終末期の特徴 - 肝臓がん

肝臓の機能が保てなくなるほど大きくなっている場合や他の臓器に転移してしまっている場合などの肝臓がんでは手術等の治療ができません。抗がん剤治療を行う方もいますが、それでは根治とすることは難しいのが現状です。そのため、抗がん剤治療はガンの進行、症状を少しでも抑えることで「元気でいる時間」を長くすることを一番の目的とします。副作用の症状で歩けなくなるなどの状況になってしまってはあまり意味がないため、抗がん剤の副作用とガンを抑える効果とを天秤にかけながら治療を行っていきます。そのため、副作用(食欲不振や吐き気、体のだるさ、下痢等)を認めた場合は抗がん剤を変更もしくは減量する必要があり、いずれはガンの進行を抑えきれなくなる時が来ます。また、肝臓の機能が悪くなり、お腹に水(腹水)がたまると、身体の状態が悪くなり、薬の治療に耐えられなくなることもあります。

抗がん剤で進行を抑えることができなくなった場合は、それぞれの症状に対する治療をメインに行っていきます。末期では著しい体重減少や体のだるさなどがありますが、お腹に腹水もたまり始めるため、お腹だけはかなり膨れてくるという状態になってきます。それに伴い、ガン自体の痛み以外にもお腹の張りでの痛みや苦しさも強くなっていきます。これらの症状には痛み止めの薬を調整して対応していくことになります。また、腹水で胃や腸が圧迫されるためなかなか食事もとれず、食事の調整等も必要となってきます。最終的には肝臓が有害物質を分解できずに身体に溜まるため、脳に影響が出始め、眠るように意識がなくなっていきます。

諸症状 - 肝臓がん

諸症状 - 肝臓がん

末期の肝臓がんでは肝臓の機能が悪くなることで黄疸(身体が黄色くなること)や、それに伴う全身のかゆみが出てきたりします。肝臓がん自体の症状として腹痛や身体のだるさ、下痢などが見られるようにもなってきます。また、肝臓の機能が悪くなり、タンパク質を作れなくなることで血管の中に水をとどめておく力がなくなってきます。そのため、血管の中の水分がお腹の中や皮膚の下に漏れていき、お腹の中に腹水が溜まったり、むくみが出たりします。

その他、肝臓は有害物質(アンモニア)を分解する働きがありますが、肝臓の機能が悪くなると有害物質が分解されなくなります。そのため、有害物質が身体に溜まってしまい、脳に影響してきます。これを肝性脳症と言います。肝性脳症でははじめは認知症のような症状が出たりしますが、徐々に眠るようになっていきます。

その他、肝臓の機能が悪くなり、肝臓へ行く血管の圧が高くなることで食道や胃の血管が膨れ(静脈瘤)、破裂することで吐血を認めることがあります。また、肝臓がんは血液が豊富なガンのため、ガン自体が破裂し、お腹の中に出血を起こすこともあります。これらは出血が多ければ死に至ることがあるので、早急な治療が必要になるケースも多くみられます。吐血などの出血は繰り返し起こることもあり、そのたびに肝臓の機能が悪くなっていくことが多いのです。そのため、適宜静脈瘤を詰める内視鏡治療等を肝臓の状態を見ながら進めていくこともあります。

痛みや苦しさが出やすい所 - 肝臓がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 肝臓がん

肝臓がんが進行すると腹痛を認めます。肝臓にあるガン自体の痛みのほか、肝臓がんは肺や骨に転移することもあり、骨などに転移した場合は転移した場所が痛むことがあります。

また、肝臓がん自体の痛みの他、肝臓がん末期では多量の腹水がたまることが多く、お腹の張りで痛みが出てくることがあり、ガン自体の痛みと同等かそれ以上にお腹がはって苦しいと言う方が多くいます。お腹の張り自体は水分を血管内に戻し、尿で水分を身体の外に出す治療で対応していきますが、それでも間に合わない場合は直接お腹に針を刺して水を抜く処置を行うこともあります。ただし、お腹に溜まっている水自体にも栄養分があるため、栄養ごと水を抜くことで腹水がたまるのが早くなってしまいます。そのため、腹水の治療は飲み薬で尿を出すことがメインとなってきます。

肝臓がんでは様々な理由により痛みを認めますが、ガンの進行に伴い痛みがひどくなってきた場合は、徐々に痛み止めの量を増やしたり、種類を変更したりと対応が必要となってきます。

死期が近い兆候 - 肝臓がん

死期が近い兆候 - 肝臓がん

肝臓がんが進行し死が近づくにつれ、身体はやせていきますが、お腹は腹水がどんどん増えていくためかなり出っ張った状態になってきます。また、腹水で胃や腸も圧迫されるため、食事もなかなか食べることができなくなってきます。身体がだるくなったり、たまった腹水で呼吸もしにくくなるため息苦しさを訴える人もいます。そのほか、肝臓の機能が悪く体が徐々に黄色くなり、最終的には身体全体が黄色になってしまいます。このように肝臓がん末期では様々な症状が現れてきます。

末期の肝臓がんでは肝臓の働きが悪くなり、有害物質が分解されずにたまるため、徐々に意識が混濁してきます。はじめは見当識障害(認知症のような症状)を認め、徐々に意識がもうろうとしてきます。その後は眠る時間が徐々に長くなっていき、最終的には眠ったままの状態となります。意識がなく眠った状態となった場合は数日、長くても2,3週間以内に死に至る可能性があります。

また、前述の吐血を繰り返す場合、肝臓がんが破裂する場合は、それにより突然死に至ることがありますが、そうでない場合でも状態が悪くなるスピードが速くなるため、確実に死期に近づいていると言えます。

ケアのコツ(要所) - 肝臓がん

ケアのコツ(要所) - 肝臓がん

肝臓がんでは末期になると、身体はやせていくにもかかわらず多くの腹水がたまり、お腹の部分が重くなってしまいます。そのため動けない状態になると床ずれが起きるリスクが高まり、身体の向きを変える等のケアも重要になってきます。また、腹水がたまることで胃や腸を圧迫し食事もとりにくくなるので、医療従事者チームと相談の上で食事も食べやすいように工夫することもよいかと思います。

肝臓がんの症状は徐々に出てくるため、患者さん本人が毎日見る少しずつの変化に気づかないこともあります。本人の自覚症状以外に何か変化がないか等を周囲が気を配ってみておき、主治医と共有して対応していくことも重要となります。

肝臓がん末期では有害物質がたまることで、急に意識もうろうとなってしまうことがあります。そのため、まだ意識がはっきりしてコミュニケーションが取れる間に患者さん本人の希望を聞いておく良いでしょう。この間に会いたい人に会っておくなども良いかと思います。

その他、がん末期のケアでは介護サービスを含め環境を整えておくことは重要です。がん末期ではケアを行う家族に負担を伴うことも多く、どんなガンでも時間とともに家族も疲弊してくることが多々見受けられます。ただし、最期まで患者さん本人に寄り添うためにも、家族が元気である必要があります。そのため、家族だけで抱え込まずに介護サービスなど頼れるものに頼ることは重要です。

鎮痛, 鎮静 - 肝臓がん

鎮痛, 鎮静 - 肝臓がん

肝臓がんではガン自体の痛みや苦しさを多く認めます。これらに対しては麻薬を含めた痛み止めを調整することで抑えていきますが、効果には個人差があります。痛みが強い方は、痛み止めを増やす、種類を変更するなどで対応しますが、痛み止めにも吐き気や下痢、体のだるさなどの副作用があります。そのため痛み止めは効果と副作用を天秤にかけながら調整していきます。副作用が強く、痛み止めを飲む前よりも体調が悪くなった、痛み止めが効かなくなっている、頓服の回数が増えてきた等の状況であれば主治医への相談が必要です。

また、肝臓がん末期では腹水によるお腹の張りで苦しい、痛いという方が多くいます。痛み止めで症状が和らがない場合は、お腹に直接針を刺して水を抜くこともできますが、その繰り返しにより腹水が溜まりやすくなりますので、どのタイミングでこの処置を行うかなどについては主治医とよく相談することが必要です。

最終的には痛み止めだけでは痛みや苦しみを取り切ることができず、眠ること、眠らせることを希望される方もいますが、その場合は眠ったままになってしまい、目覚めてコミュニケーションをとることはできなくなるため、かなり慎重に判断する必要があります。この決断は患者さん本人の希望が最も重要であり、かわいそうだからとご家族の希望のみで安易に行ってはいけません。特に肝臓がん末期では、肝臓が分解できなかった有害物質が溜まり、脳に影響することで急に意識が悪くなる方も多くいます。そのため、このような時の対応について、あらかじめ患者さんがどのような希望を持っているか、本人と十分に話し合っておくことが重要となってきます。

肝臓がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.