医師 M.Ozawa (MD)
専門分野は泌尿器科。大学病院や基幹病院で泌尿器科診療をこなす傍ら、泌尿器がん、尿路結石、尿路感染症を中心に、手術や化学療法などの学会発表や論文執筆も行い精力的に活動 - 男性
前立腺がん
Prostate cancer
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病気が辿る経過 - 前立腺がん

病気が辿る経過 - 前立腺がん

前立腺がんは進行が比較的遅いがんであり、ステージⅣの末期がんにおいても5年生存率は30%を超えています。継続的に治療を続けていくことで余命を長く保つことができるケースもあります。

前立腺がんの治療には、手術療法、放射線療法、内分泌療法があります。

手術療法と放射線療法は根治治療であり、転移のある症例や、前立腺に隣接する臓器へ広がる進行がんの症例など、根治が難しい症例に対しては内分泌療法が適応となります。

内分泌療法は、手術もしくは薬剤で男性ホルモンを低下させて去勢状態にする治療です。がんの勢いが強く、進行に伴い内分泌療法が効かなくなると、「去勢抵抗性前立腺がん」という病名となります。この時点で内分泌療法に加えて、抗がん剤治療も選択肢に加わりますが、完治は難しく、いかにがんの勢いや進行を抑えるかの治療に移行します。がんが進行すると、がんによる全身症状、がんの転移や広がりによる様々な症状が出現するため、そちらに対して処置や投薬を行います。

終末期の特徴 - 前立腺がん

終末期の特徴 - 前立腺がん

内分泌療法や抗がん剤治療でもがんの進行が抑えられない場合、がんによる全身症状や痛みを緩和するための治療が主体となります。がんによる全身症状としては、食思不振(食欲低下・食欲減退・食欲不振)や体重減少があり、症状を和らげる目的でステロイド剤や漢方薬を使用します。がんによる痛みに対しては、鎮痛剤投与や症状を和らげる目的で放射線照射を検討します。他にも、がんの進行や転移に伴って出現する症状を和らげる目的で処置や投薬を行います。医師や看護師に加え、緩和ケアの専門家など多職種が協力して、肉体的・精神的苦痛を取り除き、残された人生を有意義なものとするためのケアを重点的に行います。

諸症状 - 前立腺がん

諸症状 - 前立腺がん

前立腺がんは初期の段階では自覚症状はほとんどありません。そのため、がん検診や医療機関でのPSA(前立腺特異抗原)採血検査で発見されることがほとんどです。

前立腺がんは、がんが進行すると、排尿に伴う症状が出ることが多いです。前立腺は尿道と近い位置にあるため、がん病変の刺激により、排尿時に痛みを感じたり、頻尿や残尿感を自覚したりします。また、がんの影響による出血で、尿や精液に血が混じることもあります。

前立腺がんの末期には骨転移が高頻度で起こります。全身の骨に転移する可能性がありますが、前立腺からの血流の関係から、特に腰椎や骨盤に転移しやすく、転移によって強い腰の痛みや、下半身の麻痺が生じることもあります。骨の転移によっておこる特徴的なものは、正常の骨に比べ、非常に脆く骨折しやすくなります。転移したがんが脊髄へ広がり、脊髄損傷をきたすこともあります。部位にもよりますが、四肢の麻痺や下肢の麻痺を起こすこともあります。転移病変による骨折や脊髄損傷が原因で、車椅子や寝たきりになり、衰弱し誤嚥性肺炎で亡くなる方もいます。骨の中にある骨髄は造血臓器であり、転移したがんが骨髄に広がると、重度の貧血を起こしたり、白血病に類似した病態を起こしたりすることもあります。

前立腺がん末期では、骨以外にもリンパ節や肝臓、肺、脳などへの転移を起こすこともあり、転移した各臓器に特徴的な症状を引き起こします。

転移の他には、前立腺がんが局所的に増大することで、隣接する膀胱や直腸へも広がることがあります。膀胱に広がった場合には、膀胱内の尿管の出口を塞いでしまい、腎不全の原因になることがあります。直腸に広がった場合には、腸閉塞や腸管損傷が生じることもあります。

痛みや苦しさが出やすい所 - 前立腺がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 前立腺がん

前立腺がんは、骨への転移が多いため、転移した部位の骨の痛みを訴える方が多いです。痛み止めの調整や痛みを緩和させる目的で放射線照射を行う場合もあります。

また、前立腺は、膀胱や尿道に隣接しているので、腫瘍によって様々な尿のトラブルや症状をきたす可能性があります。腫瘍が膀胱を刺激し、尿意が強くなったり、何度もトイレに行きたくなったりなど頻尿症状が出る場合もあります。腫瘍により尿路が閉塞すると尿が出づらくなる場合もあります。尿路が完全に閉塞してしまった場合は、尿の通り道を確保するために、体表から膀胱や腎臓にカテーテルを留置することもあります(腎ろう、膀胱ろうといいます)。腫瘍から出血すると血尿となり、程度によっては貧血を起こします。また、血の塊で尿路が閉塞し、膀胱に尿や血塊が充満すると下腹部の痛みや膨満感を訴え、処置を要します。

死期が近い兆候 - 前立腺がん

死期が近い兆候 - 前立腺がん

前立腺がんだけでなく、がん一般に言えることですが、がん患者は亡くなる2-3か月前までは、特に大きな支障なく日常生活を送ることが多いです。

亡くなる1か月前ころから、急に食欲不振、倦怠感、呼吸困難感、体重減少などの全身症状が出現し、急速に全身状態が低下することが多いです。

その後、日中眠っている時間が長くなったり、昼夜逆転してしまい夜中に大声を出す、仕事や外出に行こうとしたりするなどの意識障害が増加し、亡くなる数日前には、意識状態の悪化や死前喘鳴が見られます。あえぎ呼吸や下顎呼吸は死戦期呼吸と呼ばれ、この呼吸に移行すると数時間後に亡くなる可能性が高いとされています。

睡眠障害
日中眠っている時間が長くなり、昼夜逆転してしまうこともみられます
意識障害
夜中に大声を出したり、仕事や外出に行こうとしたりすることがあります
意識状態の低下
問いかけても反応が見られないなど意思疎通が難しくなります
死前喘鳴
唾液や気道からの分泌物が貯留し、呼吸の際にゴロゴロと音がすること
あえぎ呼吸
深く息を吸い込んだ後に短く息を吐き、しばらく呼吸をしない状態が続くこと
下顎呼吸
顎のみを動かして空気を飲み込むような呼吸

ケアのコツ(要所) - 前立腺がん

ケアのコツ(要所) - 前立腺がん

前述の通り、がん患者は最後の1か月で急激に全身状態が悪化することが多く、ご家族の方も混乱し受け入れられないことも多いです。最期は、意識状態の悪化もあり、満足に意思疎通ができないことも多い為、日ごろからコミュニケーションをとり意思疎通をはかり、急に容体が悪化した時はどうするかなど、本人の意思確認が必要なことについては、あらかじめ相談することが重要です。

前立腺がんは比較的ゆっくり進行することも多いですが、骨の転移によっておこる骨折や脊髄損傷で、急に動けなくなり車椅子や寝たきりになる方もいますので、家屋の改修、車いすや電動ベッドのレンタルなどが必要になる場合もあります。動けなくなると、床ずれの予防やケアのため、定期的に体の向きを変えたり、傷の処置が必要になったりします。本人は勿論ですが、家族も精神的・肉体的・経済的負担が大きくなりますので、少しでも負担を減らすべく、福祉サービス利用を検討すべきです。末期がんであれば、早めに介護申請が通ることが多いですが、どうしても待期期間が生じ、その間は家族が対応することになります。がんが進行したり、末期がんの診断がついたら、介護申請の要否や利用できる福祉サービスの有無などを、主治医や病院のソーシャルワーカーに相談することが重要です。

前立腺がんは、末期がんであっても長く生きられる方も多いです。闘病期間も長期にわたりますので、家族内だけで抱え込まず、医療機関や介護・福祉ケアを適切に利用することで、患者本人と家族も共に質の高い生活を送ることが重要です。

鎮痛, 鎮静 - 前立腺がん

鎮痛, 鎮静 - 前立腺がん

前立腺がんが転移した骨は、骨折やがんによる痛みを引き起こします。骨以外の臓器やリンパ節に転移しても、がんによる痛みを引き起こすことがあります。痛みの感じ方は人それぞれであり、鎮痛薬使用への抵抗があり、敢えて我慢する方もいます。鎮痛剤を使用しても、生命予後には関与しませんし、痛みを我慢するよりは、しっかり鎮痛した方が日常生活の質も向上します。痛みの程度に関わらず、患者自身が苦痛に感じる痛みがあれば、主治医に相談し積極的に鎮痛剤を使用すべきです。

がんによる痛みに対しては、歯科や整形外科で処方される様な鎮痛剤から開始し、症状に合わせて段階的に調節・強化を行っていくのが一般的です。疼痛のコントロールがつかない場合には、医療用麻薬を導入します。医療用麻薬の用い方には、経口剤、貼付剤、注射製剤があります。また、疼痛を緩和する目的で放射線照射も検討されます。

各種鎮痛剤を用いても痛みがコントロールできない場合や、意識状態が悪化すると、大声をあげて苦しんだり、体を激しく動かして苦しんだりすることがあります。

この様に客観的にも患者本人の苦痛が非常に強い場合には、薬剤で患者を眠らせることもあり、これを鎮静といいます。薬剤は点滴で持続的に投与するため、一度鎮静すると、以後は目覚めてコミュニケーションをとることは難しくなります。鎮静を検討する時点で、患者は意思疎通ができず、本人の意思確認が困難になっていることが多いです。本人とコミュニケーションが取れる内に、終末期はどうするかなど、本人の希望や意思を確認した上で、家族と主治医間で鎮静の要否を相談・検討することが重要です。

前立腺がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.