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08/05 (月) 10:37更新

看取りにかかるお金

Money for end-of-life care
林 修造
社会福祉士・介護福祉士。福祉系大学の教員約20年に渡り大学や専門学校の教壇に立ち、多くの社会福祉士・介護福祉士の輩出に寄与。

〜 医療保険と介護保険を上手に使えばこわくない 〜

大切な人が余命宣告を受けた場合、支える家族としては、施せる治療法が本当にもうないのか、この先どのくらいの費用がかかるのか、看取る場所はどこが適切なのかなど、いろいろと不安に思う方が多いかと思います。

この記事では、最期を過ごす場所として考えられる、自宅、施設、病院の3つをとりあげ、それぞれにかかる費用の概算を示し、ご家族としてどのくらいの費用負担が必要なのかを説明させて頂ければと思います。それぞれの費用を知り、イメージを持ってご判断の参考にして頂ければ幸いです。

何の費用が発生するか

看取る場所が自宅、施設、病院のいずれであっても、次の費用がかかります。

ご医療費
介護費
生活費(その他の費用)

医療費

本人の加入する医療保険を使って医療を受けた場合や、処方されたお薬にかかる費用です。自宅、施設、病院のいずれにおいても、医師の診察や検査を受けた場合は負担しなければならない費用です。

医療費の自己負担割合

自己負担の割合は、本人の年齢や所得によって異なります。

75歳以上:原則1割(一定以上の所得がある場合は2割または3割)
70歳~74歳:原則2割(一定以上の所得がある場合は3割)
現役世代:原則3割
義務教育就学前の児童:原則2割

高額療養費

一ヶ月の医療費負担が一定額を超えた場合には、その超えた額を国が支給してくれる「高額療養費制度」を利用することができます。

自己負担の限度額は年齢や所得に応じて定められていますが、75歳以上の限度額は一ヶ月で57,600円までと設定されています(一般的な所得の場合)。但し、入院時の食費や差額ベッド代は同制度の対象となりません。

詳しくは 厚生労働省保険局の示す「高額療養費制度を利用される皆さまへ」 をご覧下さい。

介護費用

介護保険を利用して介護サービスを受けた場合にかかる費用です。自宅・施設において、訪問介護や訪問看護などの介護サービスを利用すれば、その量に応じて負担しなければならない費用です。

介護保険の利用限度額

介護保険サービスは、要介護認定によって認定を受けた要支援・要介護区分ごとに限度額が定められています。

居宅サービスの支給限度額(※1単位あたり10円で計算)

要介護区分
 
支給限度額
 
要自己負担額
(1割)
自己負担額
(2割)
自己負担額
(3割)
要支援1 50,320円 5,032円 10,064円 15,096円
要支援2 105,310円 10,531円 21,062円 31,593円
要介護1 167,650円 16,765円 33,530円 50,295円
要介護2 197,050円 19,705円 39,410円 59,115円
要介護3 270,480円 27,048円 54,096円 81,144円
要介護4 309,380円 30,938円 61,876円 92,814円
要介護5 362,170円 36,217円 72,434円 108,651円

参考: 和4年版 厚生労働白書 ⑩高齢者保健福祉

担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)が上記の限度額内でケアプランを作成するのが基本です。利用者は受給したサービスの種類・量に応じて、次の自己負担割合に則り費用を負担します。

自己負担の割合

介護保険の自己負担割合は、本人の年齢や所得によって異なります。

65歳以上:原則1割(一定以上の所得がある場合は2割または3割)
64歳以下:原則1割

高額介護サービス費

高額介護サービス費とは、一ヶ月の自己負担の上限額が所得区分ごとに決められており、負担限度額を超えた場合、申請によって超過分が償還されるという制度です。

No 区分 要負担の上限額(月額)
1 課税所得690万円(年収約1160万円)以上 140,100円(世帯)
2 課税所得380万円(年収約770万円)~
課税所得690万円(年収約1160万円)未満
93,000円(世帯)
3 市町村民税課税~
課税所得380万円(年収約770万円)未満
44,000円(世帯)
4 世帯の全員が市町村民税非課税 24,600円(世帯)
5 世帯の全員が市町村民税非課税で、前年の公的年金等の収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
6 生活保護を受給している方等 15,000円(世帯)

出典: 令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」厚生労働省

ここで、高額介護サービス費と介護保険の支給限度額との関係が分かりにくいため、Aさんの例を取り上げて詳しく説明します。

Aさんは80代男性、要介護3で一人暮らしです。市町村民税非課税世帯なので、上記表では「4」に当てはまります。この場合、次のような支給限度額・高額介護サービス費の負担上限額となります。

項目 金額
要介護3の支給限度額
(自己負担1割)
270,480円
(27,048円)
高額介護サービス費の負担上限額 24,600円

もし仮に一か月で支給限度額ギリギリ270,000円分の介護サービスを利用したら、自己負担額は27,000円です。(1割の場合)。

しかし、Aさんは高額介護サービス費で負担上限額が24,600円と設定されているため、自己負担しなければならない金額は24,600円に減額され、残りの2,400円は高額介護サービス費から賄われるという形となります。

但し、高額介護サービス費の対象外になる介護サービスがあるので注意が必要です。

福祉用具購入費用
住宅改修費
食費、消耗品費 ほか

また、介護保険の支給限度額を超えて利用した介護サービスの費用は、高額介護サービス費の対象とならず全額自己負担となるため、注意が必要です。

その他

食費、消耗品費、光熱水費など、生活するために必要な費用です。これは社会保険が適用されず、個人によって生活レベルが異なるため(特に自宅で生活するケースでは)一概に「○○円」とは言い難いです。

場所によって異なる費用の概要

では、次に自宅、施設、病院の場所ごとに費用がどのように変わってくるのでしょうか。以下、Bさんの例を取り上げて詳しく見ていきましょう。

Bさん80代後半の女性
要介護4
後期高齢者医療と介護保険の自己負担割合はともに1割

自宅で生活する場合

自宅で生活する場合、Bさんは在宅医療(医療保険)と介護サービス(介護保険)を利用しながら生活することになります。

項目 費用
自己負担イメージ
内容
医療費 12,000円~
30,000円/月
訪問診療、検査、処置など
※お薬代は処方された薬の種類・量によって大きく異なるため、ここには含めていない。
介護費用 30,000円/月
訪問看護、訪問介護、訪問リハビリなど
訪問入浴介護、居宅療養管理指導
通所介護、短期入所生活介護
福祉用具のレンタル等
42,000~
60,000円/月
※左記のほか、その他の費用(食費・消耗品費等)が別途必要

一見すると費用が安く抑えられるように見えますが、上記の金額には食費や消耗品費が含まれていないため注意が必要です。また、Bさんが受けた診察や検査を受けた回数、利用した介護サービスの回数・内容によって、それぞれの費用が大きく異なる点にも注意しましょう。

施設で生活する場合

介護施設で生活する場合、Bさんは施設での介護サービス(介護保険)を利用しながら、必要に応じて医療(医療保険)を受けながら生活することになります。かかる費用は概ね次のとおりです。

項目 費用
自己負担イメージ
内容
医療費 12,000円~
30,000円/月
診療、検査、処置など
※お薬代は処方された薬の種類・量によって大きく異なるため、ここには含めていない。
介護費用 110,000円~
170,000円/月
施設に入所して受ける介護費用と施設の居住費・食費・日常生活費等
122,000~
200,000円/月
※その他の費用(消耗品費等)が別途必要

こちらも、利用した介護サービスの回数・内容によって、費用が大きく異なります。また、入所した施設が介護保険施設(介護老人福祉施設や介護老人保健施設等)なのか、民間の有料老人ホームかによって、費用が大きく異なるため注意が必要です。

項目 費用
自己負担イメージ
内容
医療費 57,600円/月 緩和ケア病棟として認可を受けた施設の場合は、医療費は定額制。左記の金額は高額療養費を利用した場合
食費 41,400円/月 1食あたり460円と想定
差額ベッド代 240,000円/月 1日あたり8,000円、1人部屋を想定
339,000円/月 ※その他の費用(消耗品費等)が別途必要

参考: 「Q8.緩和ケア病棟に入院するとどのぐらい費用がかかりますか?」独立行政法人国立病院機構 神戸医療センター

参考: 「主な選定療養に係る報告状況」厚生労働省 中央社会保険医療協議会(令和2年9月16日)

まとめ

ご本人やご家族が「この先過ごす場所をどこにするのか」その選択をするうえで、それぞれの場所別に、どのくらいの費用がかかってくるのかの概算を知っておくことが大切です。

どの場所で過ごすにしても、その費用負担は決して安いものではありません。
医療保険と介護保険を適切に利用して、できるかぎり負担が大きくならないように、ぜひ工夫をして頂ければと存じます。

その為には、担当してくれている、医療・介護のそれぞれの専門家や、市区町村の担当課によく相談をして頂くことが何よりです。その上で、ご本人やご家族の経済状況とも照らし合わせ、より良い選択をしていただく事が、よりスムーズな選択には必要なことと存じます。

皆さまの1日1日が、できる限り穏やかで、できる限り悔いのない日々でありますよう、心から願っております。

林 修造 = 文