医師 I.KUNO (MD)
産婦人科医師。固形癌の診療経験が豊富で、がん薬物療法専門医でもある。 ホスピスで有名な病院勤務にて、数多くの癌患者さんの緩和ケアや看取りも担ってきた - 女性
子宮体がん
Uterine cancer
もくじ一覧

病気が辿る経過 - 子宮体がん

病気が辿る経過 - 子宮体がん

子宮体がんの初期治療は診断時のステージによって決まります。子宮や卵巣など骨盤内にのみ腫瘍がある場合には、局所治療が適応となります。第一選択は手術療法(子宮全摘出術、卵巣・卵管摘出術、骨盤内リンパ節郭清/生検など)です。高齢などの理由で手術を行うことが難しい場合には子宮の腫瘍に対して放射線療法を行います。腫瘍が子宮よりも遠く離れた臓器に転移している場合には、抗がん剤治療を行うことが多いです。このため診断時のステージによって子宮が残っているか否か、子宮の腫瘍に対する局所治療が行われているか否かが異なり、これらの状況によって終末期に起こる症状は異なります。

子宮体がんは子宮や卵巣以外の臓器へ転移があり骨盤を超えて腫瘍が広がっている場合には、完治を見込むことが難しい状態となります。子宮体がんには様々なタイプの腫瘍があります。悪性度が高く病気が進行するスピードが速い腫瘍もあれば、腫瘍の増殖がゆっくりで病気が進行していくのが遅い腫瘍もあります。全身へ転移している子宮体がんの患者さんにおいては1年~3年くらいで亡くなってしまう方が多くおられます。

がんが全身に広がっている場合には抗がん剤治療を選ぶことが多いです。年齢が若い方や、高齢ではあるものの体力がある方、重大な内科の合併症がない方は抗がん剤治療を受けることができます。抗がん剤治療が難しいが、治療可能な場合にはホルモン治療を行うこともあります。しかし現状では、これらの薬剤が子宮体がんに対して劇的な効果をもつことは極めて稀であり、完全に治すことは難しいです。治療を行う目的は病気の進行を抑え、少しでも長く生きることです。

子宮が残っている方において腫瘍からの出血で困っている場合や子宮摘出手術後の腟断端(腟の切り口を縫合している部位)周囲にがんが再発し出血している場合には、止血目的に放射線治療を検討します。

放射線治療や抗がん剤治療によって、倦怠感や吐き気などの副作用がみられることが高頻度にあります。これらの治療による副作用が強く、身体に相当な負担がかかる場合には無理をして続ける必要はありません。本人の体力やご希望、副作用に合わせて、主治医とよく相談したうえで、無理のない治療法を選びましょう。

子宮体がんではお腹の中に病気が広がってしまうことが多いです。食事がうまくとれない、体の中で痛い部位がある、お腹が張って苦しい、出血が止まらず困るなどの症状が起こります。このような症状に対しては、対処方法があります。このように、病気を治すことを目的とせず、出現する様々な苦痛の軽減を目的として行う治療を緩和ケアといいます。放射線や抗がん剤治療と同時に早期から緩和ケアを並行して行うことが非常に大切です。それぞれの症状については気兼ねなく主治医に相談するようにしましょう。

終末期の特徴 - 子宮体がん

終末期の特徴 - 子宮体がん

残念ながら病気が進行してしまい、体力が落ちて1日の半分以上をベッド上で過ごすようになり、ご自分の足で歩いて病院へ行くことが難しくなると、がんに対する積極的な治療の適応は下がります。このような患者さんにおいて、手術や抗がん剤治療が劇的な効果をもつことは極めて稀です。むしろ治療による副作用によってかえってご自身の命を短くしてしまう恐れがあります。このため、体力の低下が一定程度見受けられた場合には、無理はせずにがんに対する積極的な治療は中止するのがご本人にとって望ましいと判断されます。

このタイミングで治療はすべて終わってしまった、医療者に見捨てられてしまったと感じる方が多くいらっしゃいます。しかし、手術や抗がん剤治療の中止がすべての治療の終了という意味ではありません。今後は緩和ケアに専念し、からだのしんどさや痛みを少なくして有意義な時間を過ごせるようにしようという前向きなことですので、ご本人もご家族も希望を持って過ごして頂きたいです。

諸症状 - 子宮体がん

諸症状 - 子宮体がん

子宮が残っている患者さんでは、腫瘍から出血することが多いです。子宮全摘術後であっても、腟断端周囲に腫瘍があると出血で困ることがよくあります。

腹膜播種(ふくまくはしゅ)は、お腹の中にがん細胞が広がり腹膜に小さなできものが無数にできた状態をいいます。子宮体がんでは腹膜播種を生じることが多く、これによって胃腸がうまく動かなくなったり、閉塞してしまったりします。そして吐き気が起こったり、お腹が痛くなったりします。播種が腹水を産生し、お腹に水がいっぱい溜まってパンパンになってしまうこともあります。

手術でリンパ節郭清(りんぱせつかくせい)を受けた方や、リンパ節に腫瘍が転移している方ではリンパ浮腫(難治性のむくみ)が起こり、両足の太ももやふくらはぎ、外陰部がパンパンに腫れてしまいます。

肺に転移していると、肺腫瘤(しゅりゅう)の数が多かったり、サイズが大きかったりすると咳や痰が出ます。肺の腫瘍が胸水を産生し水が多量に溜まってしまうと血中酸素濃度が低下したり息が苦しく感じたりします。

肝臓に転移していると、正常に機能する肝臓の細胞が減るので肝臓の機能が低下したり黄疸が生じたりします。全身がだるくなり食欲が落ちます。重症化すると意識障害が起きます。

痛みや苦しさが出やすい所 - 子宮体がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 子宮体がん

子宮体がんの再発部位としてよく見られるのは、腟、リンパ節、腹膜、肺、肝臓です。

手術をしておらず子宮が残っている方や子宮全摘術後の腟内に腫瘍がある方では、腫瘍からの出血で困ることがよくあります。放射線を照射したことがない場所であれば止血目的に放射線治療を行うことができます。それ以外の方法としては腟内にガーゼを詰めて圧迫止血を試みます。この処置は産婦人科医でなければ対応が難しいことが多いです。

リンパ節に転移している場合や手術でリンパ節を摘出している場合にはリンパ浮腫(難治性のむくみ)が生じます。リンパ浮腫に対しては弾性ストッキングを着用したりマッサージを行ったりすることで症状を和らげることができます。このような治療には専門的な知識や技術が必要です。近年、リンパ浮腫を専門に診療を行っている看護師が増えています。リンパ浮腫は重症化する前に早期発見し治療介入することで改善が見込めます。気になる症状が出現したら早めに医療者に相談しましょう。

腹膜に腫瘍があると、腸の動きが悪くなり便通異常を来すことがよくあります。便秘には便を軟らかくする薬や腸を動かす薬を使い、下痢に対しては下痢を止める薬を使うことで便通をコントロールできます。

腸の動きが悪いとお腹が痛くなってしまうこともよくあります。お腹の痛みに対しては鎮痛剤を使います。弱いお薬から開始して、痛みの程度に応じてお薬を変更していきます。痛みが強い場合には医療用麻薬(オピオイド)を使います。麻薬に対して使用することに抵抗を持つ方がいますが、適切に使用すると痛みを和らげて副作用を少なくすることができますので、必要に応じて使うことが大切です。内服が難しい場合には、貼り薬や注射薬を使用し投与します。

肺に腫瘍があると息が苦しく感じたり、咳や痰が出たりします。このような息苦しさや咳を和らげることができる医療用麻薬があります。胸水がたくさん貯まっている場合には、水を抜いて対処することができます。

肝臓や腹膜に腫瘍があると腫瘍が大きくなることによってお腹が張って苦しくなることがよくあります。お腹が痛いときには我慢せずに鎮痛剤を使いましょう。痛みが取れない場合には医療用麻薬を用いることも可能です。腹水が溜まっている場合には必要に応じて、腹水を抜いてお腹の苦しさを和らげることができます。

死期が近い兆候 - 子宮体がん

死期が近い兆候 - 子宮体がん

亡くなる1週間前頃になるとだんだんと眠っている時間が長くなります。意識レベルが少しずつ低下していき、お話ができる時間が短くなっていきます。嚥下(呑み込むこと)が難しくなるので、唾液をうまく呑み込めなくなり喉元でゴロゴロと音がすることもあります。呼吸のリズムが不規則になったり、肩や顎で呼吸をするようになったりします。血圧がだんだんと下がっていき循環不全になります。このため手足の先が冷たくなったり、色が青くなったりします。尿の量も少しずつ減っていきます。

ケアのコツ(要所) - 子宮体がん

ケアのコツ(要所) - 子宮体がん

がんの患者さんの場合、元気にされていても次の日には急に体調が悪くなって動けなくなる方が多くおられます。今までできていたことが急にできなくなってしまい落ち込んでしまうかもしれません。周りの方も急激な変化に、心が追い付いていかないことがよくあります。不安や悲しみを感じることが多いと思います。このような気持ちのつらさについても医療者に言うことで和らぎますので、遠慮なくお伝えください。

どのような症状が出てくるのかは転移している臓器によってある程度予測はできます。ご自身の病状については主治医から聞いておきましょう。ただ症状の程度は個人差がかなり大きいので、それぞれの患者さんの状態に合わせて治療を行います。気になる症状があれば、遠慮せず医療者に伝えましょう。家族の方は、ご本人の様子を観察し症状の変化を記録して医療者にお伝えください。

全身の状態が悪化している患者さんにおいて心臓や呼吸が止まった場合には、心臓マッサージや人工呼吸などの心肺蘇生を行っても回復される見込みは低いです。むしろこの心肺蘇生処置が、本人にとっては苦痛になりますのでおすすめできません。心臓の停止や呼吸の停止が起きた時の対応については、前もって主治医と話し合って方針を決めておきましょう。

鎮痛, 鎮静 - 子宮体がん

鎮痛, 鎮静 - 子宮体がん

いろいろなお薬を使っても、ご本人の痛みやしんどさが残ってしまうことがあります。このような場合には点滴での睡眠薬を使って眠ってもらい、苦しくない状況をつくることが必要となります。薬剤を用いて眠ってもらうことを「鎮静」といいます。最期のときが近付いていることを示していますが、鎮静をすることで命の時間が短くなるわけではありません。本人の希望や置かれている状況に応じて、鎮静を行うことを躊躇しないことが必要です。

鎮静を開始した後は、眠っておられる表情や体を動かすかどうかを観察してください。眉間にしわがよっていたり、身体をよく動かしたりされる場合にはまだしんどさが残っている可能性があります。このような場合には医療者に相談して鎮静のお薬を調整してもらうようにしましょう。

最後に - 子宮体がん

最後に - 子宮体がん

子宮体がんが進行している場合には、残念ながらご本人に残されている時間は限られています。限られた時間を有意義に過ごせるようにすることが大切です。医療者をうまく頼って症状コントロールを行いご自分の好きなことをして過ごして頂きたいです。体力は少しずつ落ちていってしまいます。体力が残っているうちに大切な方に会ったり、思い出の場所へ旅行したり、やりたいことを十分にやって心残りがないような日々を過ごしましょう。お仕事を続けたい場合には、お仕事のやりかたを工夫すれば続けることができます。治療スケジュールについて主治医に相談したり、勤務内容を職場の方と相談したりしながらご自身の希望に一番近い方法を探しましょう。

ご自身が日々の暮らしをどのように過ごし、どのような最期を迎えたいのかは、根治が難しくなった時点から少しずつ話し合っていきましょう。ご自身の考えを家族や医療者と共有することで残された時間が有意義なものになることと思います。

子宮体がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.