医師 I.KUNO (MD)
産婦人科医師。固形癌の診療経験が豊富で、がん薬物療法専門医でもある。 ホスピスで有名な病院勤務にて、数多くの癌患者さんの緩和ケアや看取りも担ってきた - 女性
胃がん
Stomach cancer
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病気が辿る経過 - 胃がん

病気が辿る経過 - 胃がん

胃がんは、胃以外の臓器へ転移がある場合には、完治を見込むことが難しい状態となります。胃がんは、病気の進行するスピードは比較的速いことが多く、半年~1年くらいで亡くなってしまう方が多くおられます。

年齢が若い方や、高齢ではあるものの体力がある方、重大な内科の合併症がない方には抗がん剤治療を行うことができます。ただし、現代の医療では、胃がんに対して劇的な効果をもつ抗がん剤は存在しません。そのため、抗がん剤治療を行う目的は、病気の進行を抑え、少しでも長く生きることを目指すもので、完全に治すことは難しいです。

抗がん剤による副作用が強く、身体に相当な負担がかかる場合には、無理をして続ける必要はありません。本人の体力やご希望、副作用に合わせて、主治医とよく相談したうえで、無理のない治療法やお薬を選びましょう。

抗がん剤治療中においても、腹痛があったり食事がうまくとれなかったりします。このような症状に対しては、お薬での治療や放射線治療などを行うことにより、つらさを和らげることが可能です。このように、病気を治すことを目的とせず、出現する様々な苦痛の軽減を目的として行う治療を緩和ケアといいます。抗がん剤治療と同時に緩和ケアを行うことが非常に大切です。それぞれの症状については気兼ねなく主治医に相談するようにしましょう。

終末期の特徴 - 胃がん

終末期の特徴 - 胃がん

残念ながら病気が進行してしまい、1日の半分以上をベッドで過ごすようになると、抗がん剤治療の適応性は下がってしまいます。胃がんに対しては、抗がん剤が劇的な効果をもつことは極めて稀であり、抗がん剤による副作用によってかえってご自身の命を短くしてしまう恐れがあるため、体力の低下が一定程度見受けられた場合には、抗がん剤治療は中止することになります。

このタイミングで治療がすべて終わってしまうと感じる方が多くいらっしゃいます。しかし、抗がん剤治療の中止がすべての治療の終了というわけではありません。今後は出現してくる諸症状の緩和に専念をするということですので、ぜひ希望を持って過ごしていきましょう。

諸症状 - 胃がん

諸症状 - 胃がん

特に胃がんの患者さんでは、お腹の中に病気が広がってしまうことが多くみられます。また食事もとれなくなることが多いです。お腹の中の全体へ病気がひろがってしまい、胃腸がうまく動かなくなり吐き気が起こったり、お腹が痛くなったりします。

お水が溜まってお腹がパンパンになってしまうこともあります。肝臓へ病気が転移することも多く、この場合には肝臓の機能が低下し、身体がだるくなって動くのがしんどくなります。

痛みや苦しさが出やすい所 - 胃がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 胃がん

胃がんの患者さんでは、お腹の症状でしんどい思いをされる方が多くいらっしゃいます。便秘や下痢に対しては、便を柔らかくする薬や腸を動かす薬を使うことで便通コントロールをすることができます。

お腹の痛みに対しては鎮痛剤を使います。弱いお薬から開始して、痛みの程度に応じてお薬を変えていきます。痛みが強い方には医療用麻薬(オピオイド)を使います。

麻薬と聞くと、使用することに抵抗を持つ方がいますが、適切に使用すると痛みを和らげて副作用を少なくすることができますので、必要に応じて使いましょう。

胃がんの患者さんではお薬を口から飲むことが難しくなることがよくあります。この時には、貼り薬を用いて皮膚からお薬を投与したり、点滴を用いてお薬を投与したりします。

死期が近い兆候 - 胃がん

死期が近い兆候 - 胃がん

亡くなる1週間前頃になると眠っている時間が長くなります。意識レベルが少しずつ低下していきます。唾液をうまく呑み込めなくなり喉元でゴロゴロと音がすることもあります(嚥下が難しくなる)。呼吸のリズムが不規則になったり、肩や顎で呼吸をするようになったりします。血圧がだんだんと下がっていきます。手足の先が冷たくなったり、色が青くなったりします。循環不全となるため尿の量も減っていきます。

ケアのコツ(要所) - 胃がん

ケアのコツ(要所) - 胃がん

がんの患者さんの場合、元気にされていてもある日突然体調が悪くなる方が多くおられます。またどのような症状が出るのかは、転移している臓器によって異なります。個人差もかなり大きいので、それぞれの患者さんの状態に合わせて治療が行われます。

家族の方は、ご本人の様子を観察し、簡単なメモでも構いませんので症状の変化を記録して医療者にお伝えください。

体の変化が急激に起こりますので、その事に心が追い付いていかないことがよくあります。不安や悲しみに対する特効薬はありませんが、ご自身やご家族の気持ちを言葉にして医療者と共有することで一歩ずつ前には進んでいけると思います。気兼ねなく思いを医療者に伝えてください。

緩和ケアに移行した後に、心臓や呼吸が止まった場合には、心臓マッサージや人工呼吸などの心肺蘇生を行っても回復される見込みは低いことがほとんどです。むしろこの心肺蘇生処置が、本人にとっては苦痛になることも多いためおすすめできません。心臓の停止や呼吸の停止が起きた時の対応については、前もって主治医と話し合って方針を決めておきましょう。

鎮痛, 鎮静 - 胃がん

鎮痛, 鎮静 - 胃がん

いろいろなお薬を使っても、ご本人の痛みやつらさが残ってしまうことがあります。このような場合には睡眠薬を使って眠ってもらい、苦しくない状況をつくることが必要となります。薬剤を用いて眠ってもらうことを「鎮静」といいます。最期のときが近付いていることを示していますが、鎮静をすることで命の時間が短くなるわけではありません。

眠っておられる表情をみて眉間にしわがよっていたり、身体を動かしたりされる場合にはまだしんどさが残っている可能性があります。このような場合には医療者に相談して鎮静のお薬を調整してもらうようにしましょう。

最後に - 胃がん

最後に - 胃がん

胃がんが進行している場合には、残されている時間が、長くはない場合が多いので、体力が残っているうちにご自身の大切な方に会ったり、思い出の場所へ旅行したり、やりたいことを十分にやって心残りがないような日々を過ごしましょう。

お仕事を続けたい場合には、仕事のやりかたを工夫すれば続けることができます。治療スケジュールについて主治医に相談したり、職場の方と相談したりしながらご自身の希望に一番近い方法を探しましょう。

ご自身がどのように過ごし、どのような最期を迎えたいのかは、根治が難しくなった時点から少しずつ話し合っていきましょう。ご自身の考えを家族や医療者と共有することで残された時間が有意義なものになることと思います。

胃がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.