医師 I.KUNO (MD)
産婦人科医師。固形癌の診療経験が豊富で、がん薬物療法専門医でもある。 ホスピスで有名な病院勤務にて、数多くの癌患者さんの緩和ケアや看取りも担ってきた - 女性
頭頚部がん
Cancer of head and neck
もくじ一覧

病気が辿る経過 - 頭頚部がん

病気が辿る経過 - 頭頚部がん

頭頸部がんではがんが発生した場所により治療方針が異なります。手術が可能であれば手術での摘出を行いますが、手術によって発声(声を出す)や嚥下(水や食べ物を飲み込む)の機能が失われてしまいます。手術ができない場合や機能を失うことを避けたい場合には放射線療法もしくは放射線同時化学療法を行います。頭頸部がんでは他のがんが合併していることが多く、頭頸部にがんが多発したり食道がんが見つかったりします。ステージが進んだ状態で見つかることがよくあり、手術や放射線による治療後に再発してしまう患者さんが多くいらっしゃいます。

再発部位で多いのは、原発巣(がんが最初に発生した部位)の周囲です。可能であれば、手術や放射線治療、光免疫療法を行います。これらの局所治療が難しい場合や、原発巣よりも離れた臓器にがんが転移している場合には、薬物による治療である抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤による治療を行います。

終末期の特徴 - 頭頚部がん

終末期の特徴 - 頭頚部がん

頭頸部がんの終末期の患者さんでは局所治療(手術、放射線治療、光免疫療法など)に対する効果が乏しくなり、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤による治療を受けている方が多いと思われます。これらの薬物にはそれぞれ副作用があります。治療を継続していくのは、副作用よりも病気に対する効果が上回る場合に限ります。副作用の方が強く出ているのに、がんを抑える効果が乏しく病状が悪化している場合には、これらの治療薬での治療を中止せざるを得ません。このタイミングで治療はすべて終わってしまったと感じる方が多くいらっしゃいます。しかし、手術、放射線、薬物治療の中止がすべての治療の終了ということではありません。今後は緩和ケアに専念して、からだのしんどさや痛みを少なくし有意義な時間を過ごせるようにしようという前向きな意味を持ちますので、ご本人もご家族も希望を持って過ごして頂きたいです。

頭頸部がんの患者さんでは出血や感染症のコントロールに難渋することがよくあります。頸部には大きな動脈や静脈があり、腫瘍は出血しやすいです。放射線治療、光免疫療法などを行って止血を試みますが、これらの治療の適応がなく治療を行えないことや、治療を行っても効果がみられないことがあります。呼吸や嚥下に係わる場所なので感染症を起こしやすいです。誤嚥性肺炎を起こすことがよくあります。抗菌薬での治療を行いますが、感染症の根本的な原因を取り除くことはできないため、病状が悪化してしまうことがよくあります。

諸症状 - 頭頚部がん

諸症状 - 頭頚部がん

頭頸部がんでは原発巣周囲の臓器(気管、食道、反回神経など)や頸部のリンパ節に再発することが多いです。

気管や反回神経に浸潤すると、声が出にくくなったり、咳・血痰が出たりします。症状が進行すると呼吸することが難しくなります。

食道に浸潤すると、水や食べ物を飲み込みにくくなります。腫瘍が大きくなると、食事をとることができなくなります。

頸部のリンパ節に転移すると首のリンパ節が腫れて、リンパ節を触れるようになります。サイズが大きくなると見た目でもわかるようになります。腫瘍から出血することもよくあります。

頭頸部より離れた臓器では、肺、骨、肝臓への転移が多くみられます。

肺に転移し腫瘍が大きくなると咳や血痰が出ます。肺炎悪化の原因にもなります。肺の腫瘍が胸水を産生し水が多量に溜まってしまうと、血中酸素濃度が低下し息が苦しく感じます。

肝臓に転移すると肝臓の機能が低下したり黄疸が生じたりします。全身がだるくなり食欲が落ちます。重症化すると意識障害が起きます。

骨に転移し、腫瘍が神経を圧迫すると手足の麻痺や排尿・排便障害が出現することがあります。このようになる前に発見し、放射線治療や骨修飾薬での治療を行って予防できるように医師は注意して診療しています。ただ急速に骨転移が進行した場合には、先述した症状が急激に進行することがあります。このような症状がみられるときは緊急事態なので、すぐに病院を受診しましょう。

痛みや苦しさが出やすい所 - 頭頚部がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 頭頚部がん

頭頸部がんでは原発巣周囲での転移・再発が起こりやすいです。頭頸部には気管、食道があり、呼吸や食事摂取という重要な役割を担っています。顔の周囲ですので腫瘍ができた場合に他人から見てもわかりやすいため、整容面に配慮することも大切です。

気管周囲に腫瘍があると、腫瘍から出血することや感染症を起こして咳や膿が出ることがあります。さらに腫瘍が大きくなると呼吸困難に陥ります。出血は急に起こることが多いです。出血時の対応に関してはあらかじめ主治医と相談しておきましょう。咳や痰で困る場合には、呼吸を楽にする医療用麻薬を用いて症状が楽になるようにします。物理的に閉塞しており呼吸ができない場合には、手術などで気道を確保するようにします。

食道周囲に腫瘍があると、食事や水分を飲み込むことが難しくなります。腫瘍が大きくなると水や食べ物が全く通らなくなります。この場合には、栄養を得る経路を確保する必要があります。全身状態によって治療方針は異なりますが、胃ろうや腸ろうを作成して栄養剤を投与したり、太い静脈から点滴でカロリーが含まれる注射を投与したりします。

死期が近い兆候 - 頭頚部がん

死期が近い兆候 - 頭頚部がん

お亡くなりになる1週間前頃になるとだんだんと眠っている時間が長くなります。意識レベルが少しずつ低下していき、お話ができる時間が短くなっていきます。嚥下(えんげ、飲み込むこと)が難しくなるので、唾液をうまく飲み込めなくなり喉元でゴロゴロと音がすることもあります。呼吸のリズムが不規則になったり、肩や顎で呼吸をするようになったりします。循環不全となり血圧がだんだんと下がっていきます。このため手足の先が冷たくなったり、色が青くなったりします。尿の量は少しずつ減っていき最期には尿はほとんど出なくなります。

ケアのコツ(要所) - 頭頚部がん

ケアのコツ(要所) - 頭頚部がん

頭頸部がんの患者さんでは、初回治療で大きな手術や副作用が強い放射線治療を受けている方が多く、治療の合併症によって食事が十分に取れないことから体重が減ってしまい、もともとお体に大きなダメージを受けている方が多いです。感染症を起こしやすい部位ですが、体力が落ちているので感染症が急激に悪化し体調が急に悪くなりやすいです。また頸部には気管や食道という命に係わる臓器があります。腫瘍による閉塞や麻痺、誤嚥によって急に窒息や呼吸困難を生じる可能性が高いです。腫瘍から大量出血することもよくあります。このような時には緊急事態ですので、すぐに対応できるようにあらかじめ主治医と相談し準備をしておきましょう。

全身の状態が悪化している患者さんにおいて心臓や呼吸が止まった場合には、心臓マッサージや人工呼吸などの心肺蘇生を行っても元気に回復される見込みは低いです。むしろこの心肺蘇生処置が、ご本人にとっては苦痛になりますのでおすすめできません。心臓の停止や呼吸の停止が起きた時の対応については、前もって主治医と話し合って方針を決めておきましょう。

鎮痛, 鎮静 - 頭頚部がん

鎮痛, 鎮静 - 頭頚部がん

いろいろなお薬を使っても、ご本人の痛みや息のくるしさ、体のしんどさが残ることがあります。このような場合には点滴での睡眠薬を用いて意識レベルを下げ、苦しくない状況をつくることを検討します。薬剤を用いて眠ることを「鎮静」といいます。状態がかなり悪化し最期のときが近づいていることを示しますが、鎮静によって命の時間が短くなるわけではありません。ご本人の希望や置かれている状況に応じて、鎮静を行うことを躊躇しないことが必要です。意識レベルが低下しお話ができなくなってしまいますので、医療者とよく話し合い納得した上で鎮静を開始することが大事です。だた、時間的な猶予はありませんので早い決断を求められます。

鎮静を開始した後は、眠っておられる表情や体を動かすかどうかを観察してください。眉間にしわがよっていたり、体をよく動かしたりされる場合にはまだつらさが残っている可能性があります。このような場合には医療者に相談して鎮静のお薬を調整してもらうようにしましょう。

最後に - 頭頚部がん

最後に - 頭頚部がん

頭頸部がんが進行し病気が広がっている場合には、残念ながらご本人に残されている時間は限られていると考えられます。医療者をうまく頼って症状をコントロールし、ご自分の好きなことをして過ごして頂きたいです。残念ながら病気は進んでいくので、それに伴い体力は低下していってしまいます。十分に動けるうちに大切な方に会ったり、思い出の場所へ旅行したりして、やりたいことをしっかりやって心残りがないような日々を過ごしましょう。

ご自身がどこで(病院もしくは自宅)、誰と、どのような最期を迎えたいのかは、頭頸部がんが再発した時点から話し合っていきましょう。ご自身の考えを家族や医療者と共有することで、より希望に近い状況で大切な時間を過ごすことができると思います。

頭頚部がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.