医師 M.Ozawa (MD)
専門分野は泌尿器科。大学病院や基幹病院で泌尿器科診療をこなす傍ら、泌尿器がん、尿路結石、尿路感染症を中心に、手術や化学療法などの学会発表や論文執筆も行い精力的に活動 - 男性
腎盂がん・尿管がん
Cancer of the renal pelvis and ureter
もくじ一覧

病気が辿る経過 - 腎盂がん・尿管がん

病気が辿る経過 - 腎盂がん・尿管がん

腎盂がんと尿管がんは、尿の通り道を構成する尿路上皮細胞ががん化したものです。症状や治療法にもあまり差がないため、同じグループとして扱われることが一般的です。腎盂がん・尿管がんの治療には、手術療法と薬物療法があります。

手術療法は根治治療であり、転移のある症例や手術療法が難しい進行症例に対しては、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法が主体となります。薬物療法を行っても、がんが進行する場合は、がんによる全身症状、がんの転移や広がりによる様々な症状が出現するため、そちらに対して処置や投薬を行います。

腎盂がん:
腎臓は、尿を作る腎実質と、腎実質で作られた尿が集まる腎盂で構成されます。腎実質で作られた尿は腎盂に集まり、尿管を通って膀胱へ送られます。尿の通り道である腎盂の細胞がガン化したものを「腎盂がん」と呼びます。腎実質の細胞がガン化したものを「腎細胞がん」と言い、一般的に「腎がん」とは腎細胞がんのことをいいます。同じ腎臓にできるがんでも、腎盂がんと腎細胞がんでは、がんの性質や治療法が異なるため区別されます。
免疫チェックポイント阻害剤:
人が元々もつ免疫機能ががん細胞を攻撃する力を強める薬

終末期の特徴 - 腎盂がん・尿管がん

終末期の特徴 - 腎盂がん・尿管がん

薬物療法でもがんの進行が抑えられない場合、がんによる全身症状や苦痛を緩和する目的の治療が主体となります。がんによる全身症状としては、食思不振(食欲低下・食欲減退)や体重減少があり、症状を和らげる目的でステロイド剤や漢方薬を使用します。がんによる痛みに対しては、鎮痛剤投与や症状を和らげる目的で放射線照射を検討します。他にも、がんの進行や転移に伴って出現する症状を和らげる目的で処置や投薬を行います。医師や看護師に加え、緩和ケアの専門家など多職種が協力して、肉体的・精神的苦痛を取り除き、残された人生を有意義なものとするためのケアを重点的に行います。

諸症状 - 腎盂がん・尿管がん

諸症状 - 腎盂がん・尿管がん

腎盂がん・尿管がんで、最も多い症状は血尿です。血尿の程度は様々であり、見た目では分からず、尿検査で初めて指摘される様な軽度の血尿から、目で見てわかる様な真っ赤な血尿まであります。血尿で貧血になることは稀ですが、激しい血尿が続くと、めまいやふらつき、疲労・脱力感など、貧血による症状が生じることがあります。がん病変により、膀胱が刺激されると、排尿時の痛みや頻尿が生じることもあります。

がん病変により腎盂や尿管が塞がれると、尿の流れが滞り、腎臓の中に尿がたまった状態(水腎症)になります。水腎症になると、腰や背中、脇腹の痛みが生じることがあります。また、水腎症に細菌感染が生じると、炎症を起こして、発熱することもあります。

がんが進行すると、がんの広がりにより様々な症状が出現します。そして、腎盂がん・尿管がんはリンパ管や血管を介して転移しやすく、転移先のリンパ節や臓器によって、多彩な症状が生じます。

がん病変により、腸が圧迫されると、吐き気や便秘が生じたりすることもあり、腸閉塞や腸管損傷が生じることもあります。

転移に伴う症状として、肺への転移では、胸の痛み、咳、血痰、呼吸苦が生じることがあります。骨への転移では、骨の痛み、骨折などが生じます。脊椎への転移では、がんが脊髄へ広がり、脊髄損傷をきたすこともあります。肝臓への転移では、足のむくみや腹水が生じることがあります。リンパ節への転移では、リンパ管や周囲の血管の流れが滞ることにより、下半身のむくみや血栓が生じることがあります。がんが全身へ広がると、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状があらわれます。

また、薬物療法中にも、様々な副作用が生じることが多いです。抗がん剤治療中の副作用は、吐き気や嘔吐、食欲不振、脱毛があります。採血検査でわかる異常として、白血球や血小板の減少、腎臓の機能低下が生じることもあります。白血球が減少すると、免疫が弱くなり、細菌やウイルス、カビなどの感染症にかかりやすくなり、高熱が生じることがあります。血小板が減少すると、止血作用が弱くなるため、出血しやすくなったり、手足を軽くぶつけただけで、皮膚にあざができやすくなったりします。

免疫チェックポイント阻害剤の副作用として、疲労感、吐き気や下痢などの消化器症状、食欲減退、発疹や皮膚の痒みなどがあります。稀ですが、免疫の活性化に伴う副作用として、甲状腺機能低下症や間質性肺炎のほか、糖尿病や重症筋無力症、大腸炎などが生じることも報告されています。

甲状腺機能低下症
甲状腺の働きの低下により甲状腺ホルモンが不足し心や体の全身に様々な症状が出現します
間質性肺炎
原因はさまざまですが肺の壁が炎症や損傷などから壁が厚くなったり硬くなったりすることにより肺の機能が阻害される病気です

痛みや苦しさが出やすい所 - 腎盂がん・尿管がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 腎盂がん・尿管がん

腎盂がん・尿管がんは、転移することが多く、転移先の臓器によって様々な症状が出ます。肺への転移では、呼吸苦を訴える方が多いです。症状を和らげる目的で、医療用麻薬を使用する場合があります。骨への転移では、転移した部位の骨の痛みを訴える方が多いです。痛み止めの調整や痛みを和らげる目的で放射線照射を行う場合もあります。肝臓への転移では、むくみや腹水が生じることがあり、利尿剤の投与や腹部に針を刺して、腹水を抜く処置を検討します。リンパ節への転移では、下半身のむくみが生じることがあり、リンパ液の流れを改善させる目的で、ストッキング着用やマッサージを検討します。

死期が近い兆候 - 腎盂がん・尿管がん

死期が近い兆候 - 腎盂がん・尿管がん

腎盂がん・尿管がんだけでなく、がん一般に言えることですが、がん患者は亡くなる2-3か月前までは、特に大きな支障なく日常生活を送ることが多いです。

亡くなる1か月前ころから、急に食欲不振、倦怠感、呼吸困難感、体重減少などの全身症状が出現し、急速に全身状態が低下することが多いです。

その後、日中眠っている時間が長くなったり、昼夜逆転してしまい夜中に大声を出す、仕事や外出に行こうとしたりするなどの意識障害が増加し、亡くなる数日前には、意識状態の悪化や死前喘鳴が見られます。あえぎ呼吸や下顎呼吸は死戦期呼吸と呼ばれ、この呼吸に移行すると数時間後に亡くなる可能性が高いとされています。

睡眠障害
日中眠っている時間が長くなり、昼夜逆転してしまうこともみられます
意識障害
夜中に大声を出したり、仕事や外出に行こうとしたりすることがあります
意識状態の低下
問いかけても反応が見られないなど意思疎通が難しくなります
死前喘鳴
唾液や気道からの分泌物が貯留し、呼吸の際にゴロゴロと音がすること
あえぎ呼吸
深く息を吸い込んだ後に短く息を吐き、しばらく呼吸をしない状態が続くこと
下顎呼吸
顎のみを動かして空気を飲み込むような呼吸

ケアのコツ(要所) - 腎盂がん・尿管がん

ケアのコツ(要所) - 腎盂がん・尿管がん

腎盂がん・尿管がんは、再発や転移の頻度が高いため、手術で根治した後も数か月毎の定期的な膀胱内視鏡検査やCT検査が必要であり、通院や検査の負担を訴える方も多いです。

進行がんでは、薬物療法が主体となり、薬剤の投与のため、短期間の入退院を繰り返すことが多いです。薬物療法の副作用のチェックが必要であり、採血検査や診察のため、病院受診が頻回になりがちです。長期にわたって、本人と家族へ精神的・肉体的・経済的負担がかかりますので、治療に関して、心配や不安な点があれば、積極的に主治医と相談すべきです。また、がん治療を行っている病院には、「がん相談支援センター」、「医療相談室」、「患者サポートセンター」という名称で、がんに関することを相談できる窓口があります。がんの疑いがあると言われたとき、診断から治療、その後の療養生活、さらには社会復帰と、どのタイミングでも利用可能です。お金や仕事、疑問や心配、不安なども相談可能なので、積極的に利用した方が良いでしょう。

がんが進行すると、患者の体力低下や全身状態悪化に伴い、日常生活を送ることも大変になります。通院や入院の付き添いや、自宅での介護など、本人だけでなく、家族の負担も大きくなることが多いので、積極的に介護・福祉サービス利用を検討すべきです。がんが進行した場合や、末期がんの診断がついたら、介護申請の要否や利用可能な福祉サービスの有無などについて、主治医や前述した病院内の窓口に相談することが重要です。家族内だけで抱え込まず、医療機関や介護・福祉ケアを適切に利用することで、患者本人と家族も共に質の高い生活を送ることが可能になります。

そして前述の通り、がん患者は最後の1か月で急激に全身状態が悪化することが多く、ご家族の方も受け入れられないことが多いです。最期は、意識状態の悪化もあり、満足に意思疎通ができないことも多いため、日ごろからコミュニケーションをとり、急に容体が悪化した時はどうするかなど、本人の意思確認が必要なことについては、あらかじめ相談しておくことが重要です。

鎮痛, 鎮静 - 腎盂がん・尿管がん

鎮痛, 鎮静 - 腎盂がん・尿管がん

腎盂がん・尿管がんが転移した骨は、骨折やがんによる痛みを引き起こします。骨以外の臓器やリンパ節に転移しても、がんによる痛みを引き起こすことがあります。痛みの感じ方は人それぞれであり、鎮痛薬使用への抵抗があり、敢えて我慢する方もいます。鎮痛剤を使用しても、生命予後には関与しませんし、痛みを我慢するよりは、しっかり鎮痛した方が日常生活の質も向上します。痛みの程度に関わらず、患者自身が苦痛に感じる痛みがあれば、主治医に相談し積極的に鎮痛剤を使用すべきです。

がんによる痛みに対しては、歯科や整形外科で処方される様な鎮痛剤から開始し、症状に合わせて段階的に調節・強化を行っていくのが一般的です。疼痛のコントロールがつかない場合には、医療用麻薬を導入します。医療用麻薬の用い方には、経口剤、貼付剤、注射製剤があります。また、疼痛を緩和する目的で放射線照射も検討されます。医療用麻薬には、呼吸苦を改善させる作用もありますので、肺への転移により、呼吸苦症状が出ている患者にも使用されます。

各種鎮痛剤を用いても痛みがコントロールできない場合や、意識状態が悪化すると、大声をあげて苦しんだり、体を激しく動かして苦しんだりすることがあります。

この様に客観的にも患者本人の苦痛が非常に強い場合には、薬剤で患者を眠らせることもあり、これを鎮静といいます。緩和医療分野の研究では、がん終末期に鎮静を行っても、余命が短くなるというデータはありません。しかし、薬剤は点滴で持続的に投与するため、一度鎮静すると、以後は目覚めてコミュニケーションをとることは難しくなります。鎮静を検討する時点で、患者は意思疎通ができず、本人の意思確認が困難になっていることが多いです。本人とコミュニケーションが取れる内に、終末期はどうするかなど、本人の希望や意思を確認した上で、家族と主治医間で鎮静の要否を相談・検討することが重要です。

腎盂がん・尿管がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.