延命治療とはなにか
ご自身の大切な方の最期の話が出たとき、延命治療を希望するか聞かれることもあるかと思います。しかし、延命治療とはそもそも何なのか、ちゃんと説明を受ける機会はなかなかないと思います。
実は延命治療とは医学用語ではなく、また正確な定義はない言葉です。古い資料ですが、平成20年に出された厚生労働省の資料1では「何らかの治療行為を行わなければ死に至るはずのものを、生きながらえさせるための医療行為」とされています。
かみ砕いていえば、「それを止めたら、命が終わってしまう」医療行為のことを延命治療と呼んでいます。
病院の中で延命治療について聞かれるときには、心臓マッサージや人工呼吸器の装着、緊急での人工透析や輸血、その他さまざまな処置について聞かれるでしょう。
言葉だけは聞いたことがある、ドラマで見たことがある、親戚の知り合いがやったことがあると聞いたことがある――なかなか正確に理解することは難しいと思います。
お家で最期を迎えることを考えている方でも、患者さんが何らかのきっかけで病院に運ばれて、入院となり、そこで延命治療について聞かれることも少なくありません。
そのときに、少しでも納得のいく答えが出せるように、一番緊急で判断を迫られる心臓マッサージと人工呼吸にについて説明をさせて頂ければと思います。
・心臓マッサージ
心臓マッサージは、心臓が止まりそうなとき、あるいは止まった時に、胸を強く推して、その力で心臓を動かす処置です。
成人であれば、胸の真ん中の骨が5~6cm下がる程度に押し込んでは解除する、この反復を1分間に100回のペースで行います。
そのくらい強い力で何度も押すので、胸の骨が折れてしまうことや折れた骨が内臓を傷つける可能性もあります。また、必ずしも鼓動が戻るとは限りません。
・人工呼吸器
人工呼吸器は自分で息ができなくなった方に、機械の力で空気を送り込む機器です(吐き出すことは、人間の体の構造上、かなり弱っていてもできるので、息を吐く行為は自力で行います)。
ただ、この人工呼吸器は機器単体だけでは空気を送り込むことができません。最初は気管という口と肺を結ぶ管にチューブを入れて、それに機器を繋ぐことで初めて肺に空気を送ることができるようになります。気管にチューブが入っている間は、声を出すことができません。
人によっては、違和感などからチューブを抜いてしまうことがあるので、鎮静薬などで眠ってもらわないと人工呼吸器を繋げない方もいらっしゃいます。
気管にチューブを入れっぱなしにすることはできないので、入れてから14日を目途に、首に切れ込みを入れて、そこから気管に短いチューブを入れます。
特殊なチューブを入れれば話すことも可能となる方もいらっしゃいますが、基本的にお話しすることはかなり難しくなります。体に管を入れるので、感染のリスクもあります。
余命の話が出たとき、ご自身の大切な方の「最期」について否が応でも向き合うことになったことと思います。
だからこそ、残された時間をどう過ごして、最期をどう迎えたいか、しっかり話し合うための参考になれば幸いです。
1)
「終末期医療のあり方について-亜急性型の終末期について-」日本学術会議
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1027-12g.pdf