医師 M.Sasaki (MD)
専門分野は消化器外科。消化器癌の患者さんの手術、化学療法から終末期医療、お看取りまで、日常的に診療。心ある誠実なお人柄 - 女性
大腸がん
Colorectal cancer
もくじ一覧

病気が辿る経過 - 大腸がん

病気が辿る経過 - 大腸がん

大腸がんは大腸にできる悪性腫瘍です。がんが小さなうちは無症状であり、健診の便潜血検査を契機に発見される場合が多いですが、がんが大きくなると、肉眼的に便に血が混じるのが確認できるようになります(血便、下血)。更にがんが進行すると、出血が増えることで貧血になったり、腹痛や大腸閉塞の原因となります。また、がんは血流やリンパ流に乗って他の臓器にも転移します。大腸がんでは主に肝転移や肺転移、腹膜播種(※1)が多いと言われており、転移した箇所に応じた様々な症状を来します。

(※1)がん細胞が体内でこぼれ落ちて種を撒いたようにバラバラと散らばるように広がること

終末期の特徴 - 大腸がん

終末期の特徴 - 大腸がん

大腸がんの治療の基本は手術であり、がんが切除できると判断された場合には手術を行いますが、多発する遠隔転移や切除不能な術後再発の場合には、化学療法などの内科的治療が選択されます。しかし積極的な治療を行うには、全身状態がある程度良好であることが必要です。がんの勢いが強すぎて思うような治療効果が得られず、全身状態も不良で余命が残りわずかであると判断された場合、終末期と呼ばれます。

終末期には、がんの勢いは増し、腹痛や下血、転移したがん(転移巣)に起因する様々な症状が強くなっていきます。全身状態は急激に悪化し、食事を摂取することも困難になります。これはがんが最初に発生した場所である原発巣や腹膜播種による消化管の運動機能障害や閉塞だけが原因ではなく、がん自体の炎症によっても起こります。このようながんに起因する全身の栄養状態の悪化を悪液質といい、著しい食欲低下や体重減少を来します。点滴や経口栄養剤の併用など、がんの終末期に合わせた適切な栄養療法を行う必要があります。

諸症状 - 大腸がん

諸症状 - 大腸がん

大腸がんは始めのうちは無症状ですが、進行すると様々な症状が出現します。がんは大きくなると周囲を次第におかして広がり(浸潤)、腹部のしこりとなって体表から触れ、疼痛を伴うようになります。また下血やがんの炎症が原因で貧血が進行し、しばしば鉄剤の投与や輸血が必要になります。更に放置していると、がんが大腸を全周性に取り巻き、内腔が狭くなって大腸閉塞といった状態になります。こうなると便の通り道が塞がれてしまうため、ガスや便が出なくなり、腹痛や腹部の張り、嘔吐などの症状を来します。大腸閉塞は大腸破裂のリスクが高いため、緊急で内視鏡を用いて閉塞した箇所に大腸ステントという金属製の筒を挿入したり、人工肛門を造設する手術が必要になります。

更に全身の症状として、転移したがん(転移巣)による様々な症状が出現します。肝転移もはじめは無症状ですが、大きくなることで腹痛などの症状が出現していきます。また肝機能が落ち、倦怠感や黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症(肝臓で代謝できなくなった有害物質が体内に蓄積し、脳を障害することで起こる意識障害)などの肝不全の症状が出現することがあります。肺転移は小さな転移が多発して出現することが多いため、無症状である場合が多いですが、転移する箇所や大きさによっては、胸痛や胸水貯留、呼吸苦の原因になります。腹膜播種はお腹の中に癌細胞が散ってしまい、腹腔内の様々な臓器をおかすように広がり(浸潤)、多彩な症状を来します。例えば小腸に播種ができると、いずれ小腸を閉塞し、腹痛やお腹の張り、嘔吐などの症状をきたします。

痛みや苦しさが出やすい所 - 大腸がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 大腸がん

大腸がんは大腸の内腔に突出して発生するため、大腸に由来する諸症状が出現しやすいです。具体的には前述した通り、腹痛や下血、腸閉塞の症状がよく出現します。腹痛は徐々に強くなっていき、鎮痛剤による疼痛コントロールが必要になります。また下血が進行すると貧血となり、動悸や息切れ、倦怠感、立ち眩みなどの原因となるため、しばしば鉄剤の投与や輸血を要します。腸閉塞は前述のとおり緊急での治療の適応となりますが、腹膜播種が原因で閉塞が複数箇所ある場合には、治療が困難な場合もあります。

更に前述の通り、がんは全身に転移して非常に多彩な症状を来し、悪液質(※2)の状態に陥り、全身状態は徐々に悪くなっていきます。

(※2)がんに起因する全身の栄養状態の悪化

死期が近い兆候 - 大腸がん

死期が近い兆候 - 大腸がん

前述したような症状が多数出現し、徐々に動けなくなってきたり、意識障害が出現してきたら、死期が近い兆候と言えます。この頃には対症療法で苦痛を除去するのも難しくなっていき、疼痛が増悪したり、気持ち悪さや腹部の張りといった消化管の症状も強くなります。栄養状態も極めて不良なため体重もどんどん減少していき、活気も低下してきます。

ケアのコツ(要所) - 大腸がん

ケアのコツ(要所) - 大腸がん

終末期には、苦しみの伴う延命治療は行わず、患者さんの苦痛を取り除き、残された時間を充実したものにできるように支援することが必要です。これを終末期(ターミナル)ケアといい、大きく身体的ケア、精神的ケア、社会的ケアの3種類に分けられます。

身体的ケア
身体的ケアは医療者が行う投薬による対症療法が中心です。しかし身体的ケアは医療行為だけではなく、着替えや食事、排泄、清拭(※3)、移動など、日常生活を快適に過ごす上で必要な行為の介助も含まれます。特に大腸がんの場合、人工肛門のケアが必要な場合があるため、医療者とよく相談してご家族も処置に慣れていくことが大切です。

精神的ケア
精神的ケアは、患者さんの周囲の環境を整え、少しでも心穏やかに過ごせるようにすることが大切です。がんの進行により患者さんは大きなストレスを抱えており、死に対する不安に直面しています。医療者だけでなく、患者さんをよく理解したご家族に主体的に関わっていただくことで、患者さんもより安心できるでしょう。患者さんの生き方を尊重し、好きなことをして最後まで自分らしく過ごすことができるように支援してあげることが求められます。

社会的ケア
社会的ケアはケアマネージャーやソーシャルワーカーといったスタッフとの連携が必要です。患者さんは様々な社会的背景を持ち、家族構成や経済状況などは個人によって異なります。公的な介護・福祉制度、ホスピス・施設への転院や治療費の支援など、必要なサービスを過不足なく受けられるように、よく相談していくことが必要です。

家族のケア
以上に加えて、患者さんだけでなくご家族のケアも不可欠です。ご家族も患者さんと同じく、身体的、精神的に大きなストレスを抱えているにも関わらず、どうしても患者さんのことが優先となり、ご家族の生活が蔑ろとなり疲弊してしまうことがあります。何か困ったことがあれば、小さなことでも医療者や周囲の信頼できる人に相談するようにしてください。

(※3)病気やケガなどから入浴ができない場合に蒸しタオルなどで身体を拭いて清潔にすること

鎮痛, 鎮静 - 大腸がん

鎮痛, 鎮静 - 大腸がん

がんの進行に伴い、疼痛コントロールのために鎮痛剤の投与を行うことが一般的です。はじめはNSAID(ロキソニン®など)やアセトアミノフェン(カロナール®など)といった薬剤から内服を開始し、段階的に麻薬などを追加していきます。麻薬には持続的な痛みに対して定時的に内服するベースと、突出した痛みに対してその都度内服するレスキューがあり、患者さんの様子を見ながら麻薬の用量を決めていきます。また、麻薬は便秘や嘔気、食欲低下などの副作用もあり、その都度対症療法を行ったり、予防的な投薬を行います。

それでも苦痛の除去が困難となった場合には、鎮静薬を用いることがあります。患者さんは眠った状態となるため苦痛の除去には効果的ですが、一度鎮静薬を使用すると患者さんは最期まで眠り続けることになるため、鎮静を行うタイミングは慎重に決めるべきです。ご本人とご家族で希望が異なる場合もあり、例えばご本人が「もう眠らせてほしい」と言っていても、ご家族が「まだコミュニケーションが取れる状態でいてほしい」と望んでいることもります。最終的にはご本人の意思を尊重しつつ、誰もが納得できる形で最期を迎えられるようによく話し合う必要があります。

大腸がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.