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08/05 (月) 11:23更新

終末期の蘇生処置について

"About resuscitation treatment at the end of life (heart massage, artificial respirator, etc.)"
医師 A.K-Okamoto (MD)
専門分野は消化器内科で主に胆膵をメインとしながら、救命センターでの集中治療や3次救命での従事経験も豊富な救急専門医としても活躍。どこまでも分かり易く真の優しさが伝わる医療記事の執筆も評判


《終末期になった時に考えておくこと》

ガンなどの悪性腫瘍や心不全、肝不全などで終末期に差し掛かった時、医師から蘇生処置について聞かれることがあります。それは、「心臓が止まった時に心肺蘇生、つまり心臓マッサージや人工呼吸器はどうしますか。希望されますか。」ということです。

若くて元気な人が事故などで突然心臓や呼吸が止まってしまった場合、これはほぼ100%心肺蘇生(心臓マッサージや人工呼吸器)を行います。元々が元気なので心肺蘇生を行い、心臓の動きや呼吸が戻ってきたとしても、心臓が止まった原因を取り除くと元の状態や元気な状態に戻る可能性があるからです。

ただし、ガンなどで終末期となった方は残念ながら違います。もともと病気があってその病気が進行する流れで心臓や呼吸が止まった場合、心肺蘇生を行っても身体が弱ってしまっているため身体を傷つけるだけで終わる可能性がかなり高いのです。

《蘇生処置とは?実際にどういうことを行うのか》

蘇生処置は文字通り「蘇生」を行う処置です。心臓や呼吸が止まってしまった時にもう一度動き出すようにする処置となります。

具体的には、処置をする側の人が全身の体重をかけて胸を押したり、無理やり口から管を入れて人工的に呼吸をさせたり、大量の水を身体に入れて血圧を保ったり、ということなどを行います。

以下で、もう少し詳しく説明します。

[心臓マッサージ]

処置をする側の人が全身の体重をかけて胸を押したり、電気的な機器(いわゆる電気ショック)を用いて心臓に刺激を与え、心臓を人為的に動かしたり動くように導く処置のことです。

しかしながら、全身の体重をかけて胸を押すと、肋骨が折れてしまい肺を傷つけ、血を吐いてしまうこともあります。

[人工呼吸器]

口から管を気管(肺につながる道)に入れて機器などを用いて人工的に呼吸をさせる処置です。人工呼吸器をつける場合は口から管を入れるのですが、これはその後で見ていてかわいそうだから取ってほしいと言われても外すことはできません。

人工呼吸器は中止すると死に至る可能性が極めて高いため、一度つけると取り外すことができないのです。

[大量輸液]

身体の中に大量の水を入れて血圧を上げる処置です。ただ、大量の水を身体に入れることで全身がむくみ、最終的には人相が変わってしまうこともあります。

「亡くなった後にお気に入りの服を用意して、そのお気に入りの服を着て葬儀に」ということも考える方もいますが、それもできなくなる可能性は否定できません。

[昇圧薬投与]

心臓を動かしたり、血管を細くして抵抗をあげることで血圧をあげる薬を投与します。ただし、この薬にも副作用があるため、使える量は決まっており、限界量で効果がなければそのまま使い続けるだけとなります。

[その他]

足の付け根や首などから太い血管に太い管を何本も入れ、透析や人工の心臓、肺を使って機械で内臓の代わりを行う処置もあります。

しかしながらこれらは身体に傷をつけることになりますし、かなり負担も大きい処置です。終末期の方ではほぼ対象になりません。

《蘇生出来たら元の通りに戻れるのか》

処置を行った結果、奇跡的に心臓や呼吸が戻ったとしても、またすぐに心臓や呼吸が止まってしまう可能性も非常に高いと考えられます。

ガンなどで終末期の状態となっている患者さんは、もともと身体が弱っているためです。

蘇生処置を行い心臓が動き出したにも関わらず、また心臓が止まってしまった場合はまた同じような蘇生処置を行って、動き出してもまた止まってしまったので蘇生処置を行って…、と繰り返し身体を傷つけることとなります。

そして最終的には心臓も呼吸も戻らない、ということが予想されます。再び元気になって、話ができるようになってほしいと望んで蘇生処置を行っても、結果的には身体を傷づけるだけで終わってしまった、ということも現実には多くあります。

《蘇生処置を行うかの話し合いについて》

「蘇生処置を行うのか行わないのか」ということについては、本人やご家族、親戚などがあらかじめ話し合って決めておいた方が良いかと思います。

医師から突然言われたとしても、一人、もしくはその場にいた人だけでは決めきれないという場合も多いですし、何より本人の意思も聞いておくことは重要です。

終末期には意識がもうろうとしてしまう方もいますので、本人が元気な時から話し合いをしておくことが必要です。

また、どうするかを決めておらず、医師から話が合ってから親族で話し合い、ということになれば話し合いのためある程度時間も必要となります。

終末期にはいつ何が起こってもおかしくない、いつ急変してもおかしくないという状態の方は多いですし、医師に返答する前に急変してしまう場合も考えられます。

本人やご家族からどうしたいかと聞いていない場合、医療者は心臓や呼吸が止まった時には心臓マッサージや人工呼吸をしなくてはいけません。

本来ならば蘇生処置を望んでいない場合も、まだ返答がないのであれば行わなければならないのです。こうなってしまうと誰も望まない形になってしまいます。

《最後に:全員が納得できる最期を迎えるために》

終末期に当たり、まだ現実を受け入れることができない方、ご家族もいらっしゃるかと思います。

実際、自分自身や自分の家族に残された時間が少ないということは受け入れることも十分に納得することも難しい場合もあるかと思います。

実際に蘇生処置を行うかということを考えるのも、話し合うのも嫌だという方もいるかもしれません。

ただ、それでもこのことは話し合っておくべきだと思います。実際に決められないと医療従事者は蘇生処置を行わざるを得ない状況になる可能性もありますし、そうなると誰も望まないのに身体を傷つける結果となり、誰も納得できない最期となってしまう可能性があるのです。

すぐに決めなければならない、ということでもありません。少しずつ、時間をかけてでもいいのです。終末期に差し掛かった場合は最終的にどこまでの治療を希望するのか、本人、ご家族で十分に話し合っておくことが必要なのです。

医師 A.K-Okamoto (MD) = 文