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09/05 (木) 20:48更新

家族にできること

What family members can do to care for them
矢野 仁
医学博士、看護師、保健師、公認心理師、精神保健福祉士/大学病院勤務を経て訪問看護、産業保健師を経験の後、現大学教員。 大学にて教壇に立つ傍らヘルスケアプロダクト開発にも参画。



~残された時間を、できるかぎり穏やかに、できるかぎり悔いのないように過ごすために~

2023年2月24日 1版

この記事では、大切な方を看取るご家族のための3つのヒントについて書いています。

大切な家族を看取るということは、辛い気持ちになることもある一方、共に人生の終焉を歩んでいく過程を通して、より家族の絆を深める機会でもあります。

ご家族の中には、仕事の関係や遠方に住んでいるなどの理由から、望んでいたとしてもご本人と過ごす時間を多くとれないご家族もいると思います。

しかし、ご本人を支えるご家族が、できるかぎり穏やかに、できるかぎり悔いのないように過ごすために、この記事が少しでもお役に立つことができれば幸いです。

私自身、実父ががん闘病中であり、父を支える「がん家族」当事者です。みなさんと同じ立場だからこそ共感できる思い、悩み、知りたい情報などをみなさんの目線に立ってお伝えしたいと思います。

それでは、具体的に実体験を交えながら、大切な方を上手に支える“ご家族のためのヒント”についてお伝えしていきます。

筆者の体験

父にがんが発覚したと知った時は今でも鮮明に覚えています。

父が別の疾患で入院していた時でした。病院から電話があり、主治医から「念のために行った精密検査で腫瘍が発見されました。大きさや形態などからもおそらく悪性腫瘍だと思います」と告げられました。

その時は頭が真っ白になり、職場のデスクで30分以上、天を見上げていました。「これからどうなるのだろう」「治療法はあるのだろうか」「父は大丈夫なんだろうか」といった思いが頭を駆け巡りました。

またそれと同時に、妻が妊娠中だったということもあり、「自分たち家族はこのまま無事に出産を迎えることができるのだろうか」、「父のケアと生まれてくる我が子の世話は両立できるのだろうか」、「仕事とのバランスをとりながら父のケアはできるのだろうか」といった自分の置かれている環境への影響についても考えたのが正直なところです。

がん発覚後、3日間は考えがまとまらず、ただただ、頭の中の整理がつきませんでした。5日目になるとようやく、少しずつ冷静さを取り戻し、「父のために今自分にできることは何だろう」と考えはじめ、自分なりに情報収集をしたり、周囲にもアドバイスを求めました。

そして、私は以下の3つのヒントを行うことが、父に対して悔いが残らないサポートをするために大切だと思い、具体的に実践しました。

 ① 正しい情報を集める

図書館・インターネットを活用し、がんや看取りを支える家族に関する多くの情報を集めました。集めた情報を通して、

・がんの進行および治療過程

・がん患者・家族を支えるサポートと資源

・がん患者を支える上での心構え

・看取る上で大切にしたいこと

などを改めて理解することができました。

この情報収集を行なったことで、ある程度の今後の見通しがつき、少し気持ちに余裕を持って父を支えることができる、望ましい選択をすることができる気がしました。

医療職、そして当事者家族として、特に読みやすく、有用な情報が網羅されていると感じた書籍を紹介します。

もしご興味があれば、お手に取ってみてください。

 • 山口 建親.(2019).親ががんになったら読む本.主婦の友社.

 • 渡邊 清高.(2016).ご家族のためのがん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド : がん患者さんが安心してわが家で過ごすため.日本医学出版.

 • 日本緩和医療学会.(2017).患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版.   

金剛出版.

 • 吉澤 明孝.(2015).末期がん患者の家族のための「看取り」の教科書.主婦の友社.

 • 後閑 愛実.(2018).1000人の看取りに接した看護師が教える後悔しない死の迎え方.

ダイヤモンド社.

②  家族で思いを共有する

父を支えていく上でまず、本人・家族の意向や思いを共有しました。

兄妹はそれぞれ独立した家庭を持ち、育児、仕事をしている状態だったので、各々が父を少しでもサポートしたいと思う一方、距離、時間、金銭的な面からサポートできる範囲が異なっていました。

そのため、それぞれの家族が、お互いにできる事の最大限を行い、父の思いを尊重したサポートをしていこうと、思いを一つにしました。

父が一度退院した時に、父を含め全員で家族会議を開催しました。その時に話した内容は、

おおよそ以下の内容について話したように記憶しています。

・治療、入院の労い・告知を受けて、それぞれどう思ったか

・父は今、どんなことが気になったり、心配をしているか

・父はどんな生活をしたいと考えているか

・家族全員が父の意思を尊重したい思いでいること

・それぞれの家族が、できる範囲で、サポートさせてもらうから、負担かけているなど思わないで欲しい、親孝行できるチャンスだと思っていること

・何かしたいこと、やってみたいことがなか

初めての会議だったので、あまり深刻にならずに、まずは、治療の労い、父が今困っている事、心配な事をざっくばらんに共有し、一緒に家族全員で良い解決策を見つけていこうという思いの共有を行いました。

その時の穏やかで安心している父の表情はきっとこの先も忘れることはないと思います。

 ③  つながりを持つ

つながりを持とうと思ったきっかけは、職場の同僚からの一言です。

「がん治療をしている人はたくさんいるし、その方々も家族がいる。

医療者に聞いたり、本を通してイメージを膨らませることは、もちろん大切だけど、同じ悩みを抱えたがん患者家族から話を聞くこともすごく参考になるし、私だけじゃないと何か安心できるものがあるよ。そういう私も両親2人ともがんで最期まで看取っているよ!」

同僚からその話を聞いた時、「私はひとりではないのだ、同じ悩みを抱えた人たちがいる。どう向き合いどう支えていったか少し聞いてみたい。つながりを持ってみたい」と率直に思いました。

その同僚に紹介され、専門団体が主催している「がんサロン」や「がん家族会」に参加しました。そこでは温かい雰囲気で、参加者の今の悩みや生活での変化をそれぞれが語り、何かほっとする・安心できた感情を鮮明に覚えています。

もちろん、専門的な機関でのつながりでなくても、「同じがん患者を支える家族」、「同じ悩みを抱え、共感し合える人」といった存在を感じるだけでも、きっと何か得るものがあるかもしれません。

最後に

本記事では、筆者の体験談を交えながら、家族のがん発覚時から看取りを考えるまで、家族ができることについてまとめました。

家族が本人を支えるためにできることとして、わたしは3つのことが大切だと思います。

① 正しい情報を集める

② 家族で思いを共有する

③ つながりをもつ

そして、ご家族が自分自身を大切にすることもとても重要です。あなた自身が頑張りすぎず、無理をしすぎずに、あなたのペースで家族と共に歩んでいって頂きたいなと思います。

もし辛くなった時、誰かに悩みを聞いてもらいたい時は、

以下のがん家族支援機関に連絡してみてください。きっと誰かがあなたを支えてくれるはずです。

 • がん相談ホットライン 日本対がん協会

03-3541-7830  http://www.jcancer.jp/lp/hotline/

 • がん電話相談 がん情報サービス

0570-02-3410   03-6706-7797

https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/support_center/guide.html

 • がん相談支援センター がん診療連携拠点病院

https://www.gsclub.jp/hospital

私たちの記事が、少しでもあなたと家族の役に立てることを願っています。

矢野 仁 = 文