医師 E.Mitate (DDS)
専門は口腔外科。学会の指導医・専門医資格を持ち、日々智歯抜歯など口腔外科治療を行う。また緩和ケア病棟での口腔ケアも担当。Webメディアでのライティング経験も豊富 - 男性
口腔がん
Oral cancer
もくじ一覧

病気が辿る経過 - 口腔がん

病気が辿る経過 - 口腔がん

現在の口腔がんの治療は手術、抗がん剤(+放射線治療)を行い、その後に分子標的薬(※1)を使います。これら全ての武器を使ったけれども、口腔がんが原発部(※2)であったり、首(頸部)の重要な血管の周囲にへばりついてしまっている場合、もしくは転移したがんが増えたり大きくなったりするような兆候を示す場合などは、完治が見込めないと判断します。

がんがどこに残っているかでその後の経過が異なります。まず、口腔がんは首(頸部)のリンパ節に転移します。頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)(※3)という手術では首のリンパ節の掃除をしますが、掃除できる範囲は、リンパの流れや体の構造などの関係で限界があります。また、一般的にがんが転移しやすい場所は血管の細いところにがん細胞がひっかかり、その場所で増殖するというパターンが多く見られます。肺、骨、脳などに多く見られます。それぞれの場合については以下で解説します。


(※1)
病気の原因となっている特定の分子にだけ作用するような治療薬
(※2) がんが発生した所

(※3) 口腔がんの首の(頸部)リンパ節を掃除する手術

終末期の特徴 - 口腔がん

終末期の特徴 - 口腔がん

口腔がんの終末期は、食事が通らなくなることと意識が低下することが見られます。眠るような最期が多いです。

がんが存在することで痛みがあったり、のどの通りが悪くなったりすることがその背景にあります。徐々に食欲が低下し、低栄養な状態になっていきます。手足の血管からの点滴でできる栄養はそう多くありませんので、最後は水分だけの点滴を1日500-1000ml程度投与することくらいになっていきます。痛みがきつく、内服もできない状況になると、痛みを取る薬と落ち着かせる薬(鎮静剤)を点滴で投与することもあります。

諸症状 - 口腔がん

諸症状 - 口腔がん

がんが気道の近くにある場合
お口の中や首など気道の近くであれば、がんが増大して大きなこぶや固まり(腫瘤:しゅりゅう)になっていきます。完治が難しいと判断された時点では、まだお口から食事ができる状態ことが多いのですが、がんが気道に張り出してくると、水分でも飲み込みにくさを感じるようになります。これを見越して、鼻から胃にチューブを入れたり、お腹から直接胃につながる「胃ろう」という穴を造設して栄養が摂れるようにしておくこともあります。
また張り出したがんから出血することもあります。がんのために呼吸がしにくいと感じるようになり、気道閉塞を起こしやすくもなります。気道を確保するために気管切開をしたり、ステントという金属で気道を広げるような処置をすることもあります。ただし、これらの処置は、できる時期が限られることと、呼吸はできても発声が出来なくなることになります。
がんは、増殖がとても盛んなため、酸素や栄養を必要とします。そしてこの増殖する速度が速いために酸素や栄養が不足してくる部分が出てきます。そうなると、酸素不足・栄養不足によって壊死する部分が出てきます。特に血管から遠い部分にあるがんは壊死しやすくなります。この壊死した組織が独特の臭いを放ちます。がんが頰の粘膜にある場合、がんが大きくなると、頰の一部が壊死してお口の中とつながることもあります。
このように様々な原因で、栄養摂取困難で体力が奪われ、痛みなどによる意識障害などで最期を迎えることになります。
がんが肺に転移している場合
肺に転移している場合は肺でこぶや固まり(腫瘍:しゅりゅう)が増大したり、肺に水が溜まったり(肺水腫)することで徐々に呼吸がしにくくなるため、呼吸が早くなる頻呼吸になります。呼吸という動作はとてもエネルギーを必要とします。そのため、栄養摂取が低下してくると、体力が低下し、呼吸もしにくくなります。
がんが骨に転移している場合
がんが骨に転移した場合は、がん細胞が骨を破壊していくため、血中カルシウム濃度が上がります。そのため、最初はそのカルシウムを腎臓から体の外に出そうとして尿の量が増え、またお口の中が乾いてきます。
この段階で、がん細胞が骨を破壊するのを抑えるためのお薬(※1)が投与される場合は、この血中カルシウム濃度がある程度は維持されます。
しかし、それでも間に合わないくらい血中カルシウム濃度が上がる場合は、高カルシウム血症となり、意識が錯乱状態になったり、昏睡状態になったりします。
がんが脳に転移している場合
上あごの歯肉にできたがんの場合は、上方に増殖します。その結果、目の奥や脳に転移することがあります。物の見え方に問題が出てきたり、脳を圧迫するため様々な脳機能障害が出てきます。


(※1)
ビスフォスフォネート製剤や副甲状腺ホルモン製剤

痛みや苦しさが出やすい所 - 口腔がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 口腔がん

がんによる痛みや苦しさが出やすい場所も、がんがどこにあるかによって異なります。部位によってそれぞれ詳しく解説します。

がんが舌から首にかけての範囲にある場合
がんが舌にある場合、舌そのもの、そしてその付け根にかけての範囲に痛みを感じます。動かしたら痛いこともあれば、安静にしていても痛いこともあります。舌が動かしにくいと感じるようにもなります。そのため会話がしにくくなるので、今までよく喋っていたのが口数も減っていきます。また、食事では飲み込みにくさを感じますので、食事の量が減ったり、柔らかいものだけを食べるようになったりします。
がんが首にある場合は、首を動かすのも徐々に難しくなります。
がんが頰にある場合
これも舌にがんがある場合と同じですが、がんの周囲に痛みを感じます。また頰を動かしにくいため、食事の際のお口が動かしにくさを感じるようになります。そのため、あまり咀しゃくしないようになり、会話の口数も減っていきます。がんが頰に穴を開けてしまうこともあります。この場合、お口の中のものがそのまま見える状況になったり、唾液などが外に垂れてくるといったことも見られます。
がんが肺に転移している場合
がんが肺に転移している場合は呼吸がしにくくなる感じ(呼吸困難感、呼吸苦)が出てきます。
がんが骨に転移している場合
がんが骨に転移している場合は、がん細胞が骨を溶かしていきます。この時に痛みが出てきます。骨盤や背骨に転移すると、その部分に関連した痛みが出てきます。

死期が近い兆候 - 口腔がん

死期が近い兆候 - 口腔がん

口腔がんによる死期が近い兆候はいくつかあります。

食事をほとんど食べない・食べたがらなくなった。
食欲の低下は死期が近い兆候と考えられます。
がんからの出血することが増えたり、出血量が多くなった。
がんからの出血は、ガーゼなどで圧迫するくらいしかできません。そのためなかなか出血を止めることが難しいです。
意識レベルが低下して、受け答えの反応が少なくなった時。
1日中ほとんど眠ったような状態でいる時
鎮痛剤の量が増えている時

ケアのコツ(要所) - 口腔がん

ケアのコツ(要所) - 口腔がん

お口のケアで準備しておくといいアイテムをご説明します。

・歯ブラシ
・スポンジブラシ
・舌ブラシ(柔らかいものを)
・液体歯みがき(ピュオーラ泡歯みがき、キュオム デンタルートF)
・口腔ケア用ジェルハミガキ(キュオムウェットプラス、リフレケア)
・口腔内用の保湿クリーム(キュオム はちみつモイスト、オーラルバランス)
・水を入れたコップ
・ティッシュかガーゼ
・歯間ブラシ
・入れ歯があれば、入れ歯洗浄剤、入れ歯用歯ブラシ

お口の中を清潔にする
まず、お口の中を清潔に保つことを心がけます。もちろん、本人および介助者ができる範囲で構いません。普通の歯みがきが難しい場合は、歯ブラシに液体歯みがき・うがい薬を薄めたものをつけて介助者が歯みがきをします。吐き出せない方は、ガーゼやティッシュでぬぐってから拭き取ります。

乾いてへばりついたタン(喀痰)は無理に剥がそうとせずスポンジブラシを上手く活用する
口呼吸が多かったり、冬場など空気が乾燥する時期は、お口の中も乾燥するため、タン(喀痰)がお口の粘膜に乾いてへばりついている場合がよくあります。その時は、無理に剥がそうとはせず、まずスポンジブラシを水道水で濡らし、タンに水分を繰り返し与えるようにしてぬぐっていきます。ほお、舌、上あごの歯肉、下顎の歯肉、歯の順に全体をスポンジブラシで拭っていきましょう。下の前歯の裏側にもタンがよくこびりついていることが多く、かつ取りにくい場所でもあります。最後に市販の保湿ジェルを頰や舌全体に塗布していきます。

口腔内にあるがんには決して触らない
舌などにがんが残っている場合は、がんを触ると痛みが出ますし、出血する可能性もあります。決して触らず、本人の表情を見ながら可能な範囲のケアにとどめて構いません。

鎮痛, 鎮静 - 口腔がん

鎮痛, 鎮静 - 口腔がん

痛み止めには多くの種類があります。頭痛で使うロキソプロフェン、アセトアミノフェン、そして麻薬であるモルヒネ,オキシコドン、フェンタニルなどを組み合わせたり、これらをローテーションしながら使います。決められた時間に使って、痛み止めの血中濃度を維持しつつ、急にやってくる痛みに対して頓服で使える痛み止め(レスキューという)も使います。

痛みは本人しかわからないものです。痛みを評価する際によく使われるのはVASスケールというものです。痛みが無い時を1、今までで一番痛い痛みを10として、今の痛みがどれくらいかを本人に指し示してもらう方法です。その他に介助者が見てわかるのは顔の表情です。きつい顔をしているのか、リラックスしているのかなどを参考にします。痛みできつそうな表情であれば、痛み止めを増量したり、レスキューを投与してその効果を見ます。レスキューを使う回数が多いと、定時に使っている痛み止めの効きが弱いと考えますので、その投与した時間の記録をつけ、医師に相談しましょう。

痛みが強くなり、鎮痛剤だけでは十分な効果が得られない場合は、医師に相談して鎮静剤の投与を考えてもらいましょう。鎮静剤は点滴で投与するものがよく使われます。鎮静剤を使っても寿命は短くならないと言われています。また、本人の苦痛を和らげるには鎮静は1つの方法です。

口腔がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.