腎不全とは腎臓の機能が悪くなってしまう状態のことです。腎臓には身体の中の余分な水分や老廃物を身体の外に出す役割、血液中のイオンのバランスを調整する役割などがあります。その腎臓の機能が落ち、役割を十分に果たせなくなると、身体に老廃物や水分が溜まってきます。そのまま何もしないと、身体のだるさや意識がもうろうとする、むくみ、心臓への負担による息切れ、不整脈などを起こしてきます。そのため末期腎不全になった場合は、腎臓の代わりを行うための透析、もしくは腎移植を行う必要があります。しかしながら、日本ではドナー(腎臓を提供する人)も少なく、腎移植をすぐに行うことは難しいのが現状です。そのためほとんどの人は透析を行うことになります。透析は血液透析(血管を針で刺して、血液を身体の外に出して機械の膜で行う透析)と腹膜透析(お腹の膜を使って自宅などで行える透析)の2種類があります。血液透析は病院への通院が必要であるため、週2,3日(場合によってはそれ以上)は通院が必要となってきますし、透析にも通常4時間程度かかるため、通院負担が大きいものです。一方で腹膜透析はある程度自宅などで行うため、通院の頻度を減らすことで負担を減らせます。しかしながら、透析が長期になるとその膜も使い痛みでボロボロになってしまいますので、その後に腹膜透析から血液透析へ変更する場合も多くあります。
病気が辿る経過 - 腎不全
病気が辿る経過 - 腎不全
終末期の特徴 - 腎不全
終末期の特徴 - 腎不全
腎不全の場合、腎臓が老廃物や水を身体の外に出すことができなくなるため、腎臓の代わりをするものが必要となります。そのため、不全となった場合は透析治療を行いますが、腎臓の状態などにより症状が悪くなると透析の回数も増えてきます。
また、腎不全が進んだ場合は血管も硬くなる、弱くなることなどが多く(動脈硬化)、血圧も安定しにくくなってしまうことも出てきます。その上、透析では身体に負担がかかるため、血圧が低くなるなどの症状が出てくることがあります。しかしながら、透析治療はある程度の血圧を保てる状況でなければ行えません。そのため、血圧が低くなるなどが起こると、透析を中断せざるを得ない状態となります。十分な透析治療ができない場合は本来の透析治療の日以外に透析を行う、薬を使うなど追加の治療が必要となってきます。
最終的にはそれでも十分な透析治療が行えず、水や老廃物を十分に身体から除去できないため徐々にむくみがひどくなる、吐き気や不整脈、身体のだるさや意識がもうろうとするなどの様々な症状が出てきます。
諸症状 - 腎不全
諸症状 - 腎不全
腎不全では身体の余分な水分を尿として外に出すことができないため、尿が少なくなります。水がたまることで皮膚の下に水分が染み出て手足がむくみ、肺の血管にたまった水分が染み出て胸に水が溜まってしまったり、血管に溜まった水分が心臓に負担をかけることで息切れや動悸等を起こしたりと様々な症状を引き起こします。また、老廃物が溜まることで身体のだるさや頭痛、吐き気、食欲不振などが起こります。最終的には胸に水が溜まって肺が水に浸かってしまうことで十分な呼吸ができなくなったり、老廃物がたまりすぎて意識がもうろうとしたりしてきます。腎臓の代わりに水分、老廃物を外に出す手段として透析を行いますが、透析を行うことでも血圧低下や頭痛、動悸やだるさ等の合併症を引き起こすこともあります。
その他、腎臓は老廃物以外にも余分なイオンを身体の外に出して濃度を調整する役割を持ちます。そのため腎不全では、イオンのバランスが調整できなくなることで不整脈を起こしたり、身体が酸性に傾くことでも吐き気やだるさなどが出たりします。
一方で、赤血球(血液の中の酸素、栄養を身体に運ぶ血球)を作るホルモンを作りだすのも腎臓の役割です。そのため腎臓の働きが悪くなると貧血を引き起こすこともあります。さらに、たまった水分で血液が薄まり貧血がひどくなることもあります。
痛みや苦しさが出やすい所 - 腎不全
痛みや苦しさが出やすい所 - 腎不全
腎不全では頭痛を認めたり、足のむくみ、だるさ、吐き気などが続くことによる苦しみが出てくることがあります。また、身体に水分が溜まることによる心臓への負担により動悸や胸の痛み、胸苦しさ、息苦しさを認めることも多くあります。
透析を行う場合、透析のための針を刺す時の痛み(これも一瞬とはいえ繰り返されるので苦痛に感じる人もいます)、血管の痛みを認めることもあります。透析治療が長期間になってくると、関節痛や筋肉痛が出てくることも多くあります。
その他、透析が始まると、それまでとは生活が一変してしまう、通院自体も日常生活でかなりの負担となってしまいます。また、透析を行えなくなると死が近づくため、不安を抱えることも多くあります。そのため、これらに伴う精神的な苦しみも認めることがあります。
死期が近い兆候 - 腎不全
死期が近い兆候 - 腎不全
腎不全では、腎臓が身体に余分な水分や老廃物を身体の外に出す、イオンバランスの調整等の役割が果たせなくなります。そのため、腎臓の代わりとなる透析治療を行います。しかしながら、状態が悪くなり透析が十分にできなくなり、これらが身体に溜まりすぎてしまうと様々な症状が起こり命に関わるため、透析が十分にできなくなる、全くできなくなると死期に近づいている証拠の一つと言えるでしょう。特に透析が全くできなくなった場合は数日~1,2週間程度で死に至ることが多くあります。
透析ができずに老廃物が溜まると頭痛やだるさ、吐き気などの症状が出現し、さらに病状が進むと意識がもうろうとしてきます。また、身体に水分が溜まることで心臓にかなりの負担がかかり、心不全となることもあります。そのため動悸が出てくる、足のむくみが全身に広がる、肺に水が溜まり息苦しくなる(はじめは歩いているときの息切れ、横になると息苦しくなる、座っていないと息苦しくなる、というように徐々に進行し、最終的には何もしなくても息苦しくなってしまいます)というように症状が悪くなってきます。息苦しさで動けないなどの状態になると、死期が迫っていると考えられます。
その他、腎不全では血管が硬くなることも多く(動脈硬化)、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などを起こすこともあり、突然死に至ることもあります。
ケアのコツ(要所) - 腎不全
ケアのコツ(要所) - 腎不全
腎不全となった場合、透析で余分な水分や老廃物を外に出したり、イオンバランスを調整したりしますが、外に出すだけでなく体内に入れすぎないように、食事でタンパク質や塩分、カリウムなどを制限したり、水を飲む量を制限したりします。そのため食事や水分の制限については家族など周囲の協力が必要となってきます。食事に関しては家族だけで行うことは難しいことが多いため、あらかじめ栄養士にアドバイスをもらうのも良いでしょう。また、腎不全の場合、薬を飲むことも多いですが、量、種類ともに多くなることがあります。そのため、場合によっては薬の管理などのサポートも必要になってきます。
透析が始まると通院時間も多く取られ回数も多いため、かなりの負担となります。そのため、特に高齢者等一人で通院することが困難な方などは、送迎も含め家族のサポートなども必要となってきます。また、血液透析を行う場合、シャントという透析の針を刺すための血管を手術で作りますが、ここが感染したり、詰まったりすると透析ができなくなってしまいます。そのため、何か異常が起きていないかなども含め、周囲も気にかけてあげると良いでしょう。
鎮痛, 鎮静 - 腎不全
鎮痛, 鎮静 - 腎不全
腎不全では最終的に透析等でも身体の水分や老廃物を外に出しきれず、様々な症状が起こってきます。水分が身体に溜まってしまい心臓に負担がかかると、息苦しさ、胸苦しさが多く認められてきます。息苦しさは、他の病気のように痛みが続く以上に苦しいことであるため、薬などで症状を少しでも軽くしていきます。しかしながら、徐々に症状が悪くなっていくと、最終的には薬でも症状を抑えきれず、苦しみを取り切ることができなくなってしまいます。酸素や人工呼吸器の力を借りて息苦しさを取ることもありますが、根本的な解決にはなりません。
この状態になってしまうと、眠らせることで少しでも苦痛がわからないようにしてほしい、と希望される方もいます。ただし、眠らせてしまうと、その後で意識がはっきりとすることはないままとなってしまい、その後は十分なコミュニケーションが取れなくなる可能性があります。そのため、眠らせるかどうかについては、かなり慎重に判断する必要があります。
また、この治療を行うかは患者さん本人の希望が最も重要であり、周囲の「本人が苦しそうだからしてほしい」という希望のみで安易には行ってはなりません。
腎不全では老廃物が身体に溜まることで患者さんの意識がもうろうとすることもあり、患者さんの希望を確認することが難しくなってしまうことがあります。そのため、患者さんがしっかりと判断できるうちに、患者さん本人と十分に話し合っておくことが重要なのです。
<大切なお話し> - 腎不全
<大切なお話し> - 腎不全
●透析非導入(透析治療を始めない)、もしくは中止したいと考えている方へ
末期腎不全となった場合、腎臓が機能せずに水分や老廃物を身体の外に出すことができなくなってしまうと、腎移植や透析を行わなければ短期間で死に至ります。また、透析を行わない場合は安らかに死に至るのではなく、むくみ、身体のだるさや呼吸困難など様々な苦痛を伴いながら死へ向かうことになってしまいます。腎不全が原因の症状であるのなら透析を行えばある程度状態がよくなる可能性が高いこと、透析を行わないと死に至ることはほぼ確実であることから、医学的に困難な状況でない限りは透析治療を勧められます。もちろん、患者さんの状態によっては透析ができないほど状態が悪いこともあり、医学的に透析治療困難と判断されることはあります。ただ、そのような状態の場合は、他の身体の状態も悪く、死が目前に迫ってきている状況になっていることが多いと考えられます。
その一方で、透析治療自体も身体や精神的に負担があること、その他周囲の家族にも負担がかかることがある治療であることから、医師から言われる前に透析中止を希望される方がおられます。治療を受けるかどうかということは患者さん本人の意思によるものが最も重要であるため、患者さんからの強い希望があれば中止もしくは透析治療を始めないというケースもあるかと思います。ただ、希望された時点では透析を行わないことでどういう状況が待ち構えているかなどを十分に想像できず、「こんな苦しい状況になるとは思わなかった」と思ってしまう人がいるかもしれません。そのため透析治療については、安易に「したくない」などと決めるのではなく、透析治療を始めなければいけない状況となる前から、患者さん本人とご家族のみなさんで「透析を受けるとどういう生活になるのか」「透析治療をしないとどうなるのか」ということをふまえて、十分に話し合って考えて決める必要があります。