医師 I.KUNO (MD)
産婦人科医師。固形癌の診療経験が豊富で、がん薬物療法専門医でもある。 ホスピスで有名な病院勤務にて、数多くの癌患者さんの緩和ケアや看取りも担ってきた - 女性
原発不明がん
Cancer of unknown primary origin
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病気が辿る経過 - 原発不明がん

病気が辿る経過 - 原発不明がん

原発不明がんとは、体の中に腫瘍(しゅよう)ができており、がん細胞が検出されているが、そのがんがどの臓器から発生したのか(原発巣;げんぱつそう)がわからない場合に診断される病気です。よって、原発不明がんの患者集団は一定ではなく、ひとりひとりが異なるタイプの病気を持っていることになります。

病変の分布やがん細胞の特徴などから原発巣をある程度絞ることができればその臓器のがんに準じた治療を行います。がんが全身に転移している患者さんが多く、ほとんどの患者さんでは手術の適応がないので抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤を主体にして治療を行います。

患者さん毎に病状や辿る経過は全く異なります。一般的には予後が不良であることが多く、診断から1年以内に亡くなってしまう患者さんが多くいらっしゃいます。

がんが転移している臓器によって症状は異なります。ご自身の病気がどの臓器に転移しているのか、組織型(そしきがた)はどの臓器に似ているのか、どのような治療選択肢があるのかなど、がんに関する情報は主治医からしっかり聞いておきましょう。

終末期の特徴 - 原発不明がん

終末期の特徴 - 原発不明がん

病気が進行し、1日の半分以上をベッドで過ごすようになり、ご自分の足で歩いて病院に行けなくなると、がんに対する治療の適応は下がります。特に抗がん剤治療には強い毒性があり、副作用によってかえってご自身の命を短くしてしまう恐れがあるため、体力の低下が一定程度見受けられた場合には、抗がん剤治療は中止します。原発不明がんに対して抗がん剤治療が劇的な効果を持つことはまれであり、体調が良くないのに無理をしてまで治療を行うメリットは少ないです。

このタイミングで治療がすべて終わってしまったと感じる方が多くいらっしゃいます。しかし、抗がん剤治療の中止がすべてのがん治療の終了というわけではありません。今後は出現してくる諸症状を和らげることに専念をするということですので、患者さんご本人もご家族も希望を持って過ごしていきましょう。

諸症状 - 原発不明がん

諸症状 - 原発不明がん

転移している臓器によって起こりうる症状はある程度予測できます。

肺に転移がある場合には、咳や血痰がでることがあります。胸水が溜まり、量が多いときには息苦しく感じたり血中酸素濃度が低下したりします。症状が強い場合には胸水を抜きます。可能であれば胸膜癒着を行い胸水が溜まりにくいようにすることができます。

肝臓に転移がある場合には、腫瘍が大きくなると正常に働く肝細胞が減ってしまい肝機能が悪化します。肝臓が大きく腫れるとお腹が苦しく感じます。また黄疸を引き起こすこともあります。体がだるくなったり食欲が落ちたりします。症状が進行すると意識障害を起こします。

腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、お腹の膜にがん細胞が無数に広がり腫瘍を形成したり、腹水が溜まったりする病態です。腹水が溜まるとお腹が苦しく感じます。腫瘍によって腸の動きが悪くなり、便秘になったり嘔吐したりします。

脳に転移があっても無症状であることが多いです。腫瘍の位置によっては四肢麻痺、呼吸筋麻痺、けいれん、意識障害を起こすことがあります。このような症状が出たときには緊急事態ですのですぐに病院を受診しましょう。

骨に転移がある場合、腫瘍が神経を圧迫し、手足の麻痺や排尿・排便障害が出現する可能性があります。このような症状が出る前に発見し、放射線治療や骨修飾薬での治療を行って予防できるように医師は注意して診療しています。ただ急速に骨転移が進行した場合には、急激に先述した症状が出現することがあります。このような症状がみられるときは緊急事態です。すぐに病院へ連絡し受診しましょう。

痛みや苦しさが出やすい所 - 原発不明がん

痛みや苦しさが出やすい所 - 原発不明がん

原発不明がんの患者さんでは、ひとそれぞれ症状が異なります。

お体に痛みがある場合には鎮痛剤を使います。弱いお薬から開始し痛みの程度に応じてお薬を変えていきます。痛みが強いときには医療用麻薬(オピオイド)を使います。麻薬と聞くと、使用することに抵抗を持つ方がいますが、適切に使用すると痛みを和らげて副作用を少なくすることができますので、必要に応じて使いましょう。痛みの程度を医療者に伝えるにはスケールを用いると便利です。10が想像できる最大の痛み、0が痛みなしとして 0~10までの11段階に分けて現在の痛みがどの程度かを数字で表して記録し、診察時に伝えましょう。

肺に病気があると息が苦しく感じたり、咳が出たりします。息苦しさや咳を和らげることができる医療用麻薬がありますので、遠慮せずに自分の症状を医療者に伝えましょう。

肝臓や腹膜に病気があるとお腹が張って苦しくなります。便秘や下痢に関してはお薬で便通をコントロールできます。吐き気を治めるお薬もあります。腹水が溜まっている場合には必要に応じて水を抜くことができます。

脳に病気があるとけいれんや麻痺を起こします。脳の浮腫を取ったりけいれんを予防したりする薬剤があり、それらを用いて症状コントロールを行います。また必要に応じて放射線治療を行います。

死期が近い兆候 - 原発不明がん

死期が近い兆候 - 原発不明がん

亡くなる1週間前頃になると眠っている時間が長くなります。意識レベルが少しずつ低下していきます。唾液をうまく呑み込めなくなり喉元でゴロゴロと音がすることもあります(嚥下が難しくなる)。呼吸のリズムが不規則になったり、肩や顎で呼吸をするようになったりします。血圧がだんだんと下がっていきます。循環不全となるため手足の先が冷たくなったり、色が青くなったりします。尿の量が減っていき、亡くなる直前には尿がほとんど出なくなります。

ケアのコツ(要所) - 原発不明がん

ケアのコツ(要所) - 原発不明がん

がんの患者さんでは、お元気にされていてもある日突然体調が悪くなる方が多くいらっしゃいます。特にお若い方では日常生活動作(ADL)の低下が急激に起こることが多いです。ご家族の方は、ご本人の様子を観察し症状の変化を記録して医療者にお伝えください。

全身の変化が急激に起こりますので、その事に心が追い付いていかないことがよくあります。不安や悲しみに対する特効薬はありませんが、ご自身やご家族の気持ちを言葉にして医療者と共有することで一歩ずつ前に進んでいけると思います。気兼ねなく思いを医療者に伝えてください。

緩和ケアに移行した後に、心臓や呼吸が止まった場合には、心臓マッサージや人工呼吸などの心肺蘇生を行っても回復される見込みは低いです。むしろこの心肺蘇生処置が、ご本人にとっては苦痛になりますので、おすすめできません。心停止や呼吸停止が起きた時の対応については、あらかじめ主治医と話し合って方針を決めておきましょう。

鎮痛, 鎮静 - 原発不明がん

鎮痛, 鎮静 - 原発不明がん

いろいろなお薬を使っても、ご本人の痛みやつらさが残ってしまうことがあります。このような場合には睡眠薬を使って眠ってもらい、苦しくない状況をつくることが必要となります。薬剤を用いて眠ってもらうことを「鎮静」といいます。最期のときが近付いていることを示していますが、鎮静をすることで命の時間が短くなるわけではありません。鎮静を開始するとご本人とはお話ができなくなってしまいます。このため医療者としっかり話し合い納得した上で鎮静を開始することが大切です。ただ時間的な猶予はないので、躊躇せずに開始することも必要です。

鎮静を始めた後には、眠っておられる表情をみてください。眉間にしわがよっていたり、身体を動かしたりされる場合にはまだしんどさが残っている可能性があります。このような場合には医療者に相談して鎮静のお薬を調整してもらうようにしましょう。

最後に - 原発不明がん

最後に - 原発不明がん

原発不明がんが進行していても、症状がコントロールできている場合にはご自分の好きなことができます。いずれは病気が進行し動くことが難しくなってしまいます。体力が残っているうちにご自身の大切な方に会ったり、思い出の場所へ旅行したり、やりたいことを十分にやって心残りがないような日々を過ごしましょう。

お仕事を続けたい場合には、仕事のやりかたを工夫すれば続けることができます。治療スケジュールについて主治医に相談したり、職場の方と相談したりしながらご自身の希望に一番近い方法を探しましょう。

ご自身がどこで、どのように療養し、どのような最期を迎えたいのかは、早い段階から少しずつ話し合っていきましょう。ご自身の考えを家族や医療者と共有することで残された時間が有意義なものになることと思います。

原発不明がん
病気経過終末期 Disease course and terminal stage.