直腸がんを中心とした大腸がんにおける放射線治療の役割
放射線治療の種類
大腸がんの放射線治療は、患者さんの状態やがんの進行度によってその方法や目的は様々です。ここでは、大腸がんの放射線治療の主な種類と、それぞれの治療がどのように計画され実施されていくのかを具体的に解説していきます。
術前放射線治療、放射線化学療法
Preoperative radiotherapy, chemoradiotherapy
術前放射線治療は「短期間集中照射」と「長期間分割照射」の二つの方法があり、これらは進行した直腸がんにおいて非常に重要な役割を担っています。後者は化学療法と併用されます。外科手術を行う前に放射線を照射することでがんを小さくすることを主な目的としており、がんが小さくなることで、手術の成功率が向上し、より安全かつ確実にがんを根治切除できる可能性が高まります。
また、術後に同じ場所でがんが再発する局所再発のリスクも下げることができます。また、直腸がんでは手術によって人工肛門の造設が必要となるケースもありますが、放射線化学治療でがんが極めて良好に縮小した場合に肛門温存が可能となることがありえます。このように、放射線治療の併用は患者さんの生活の質(QOL)の維持・向上につながり、術後の生活を考慮した治療選択肢として広く行われています。
短期間集中照射は1回当たりの線量が比較的高い照射を数回(5回程度)に分け、短期間で集中的に照射する治療法です。患者さんの通院負担が少ない点がメリットとして挙げられます。短期照射は時に長期間分割照射+化学療法と組み合わせたり、そのまま手術を行ったりと各種の治療と組み合わせ、それぞれの治療の効果を底上げするための治療選択肢という立ち位置になります。
長期間分割照射は、比較的低線量の放射線を多数回(25~30回など)に分け、約5~6週間かけてゆっくりと照射する治療法で、合併症を軽減しながら治療を進めることが可能であり、通常化学療法(抗がん剤治療)と併用されます。より高い治療効果が期待されます。長期間照射は遠隔転移・再発する確率を下げたい局所進行例(※1)で手術と併用します。この治療はその効果も高いことから、結果的にがんが完全に消失した場合、慎重な判断の上で、手術を回避できる可能性を秘めています。
※1:局所進行例
がんが発生した部位およびその近くの組織やリンパ節に広がってはいるが、遠隔臓器への転移は認められない状態を指します。
術後放射線治療
Postoperative radiotherapy
術後放射線治療は、手術で直腸がんを切除した後に追加で行われる放射線治療を指します。術前には放射線照射を受けていない状態で手術に臨み、手術した結果、再発のリスクが高い病理組織結果であったときに救済するための処置として行われます。病理検査の結果、リンパ節転移が広範囲に及んでいた場合、がんが周囲の臓器や組織に深く浸潤(※2)していた場合、手術の際に切除した組織の断端部にがんが露出しているとき、あるいは極近接している状態のときは術後の再発のリスクが高いことから術後放射線治療が適応と判断されます。
※2:浸潤
がん細胞が発生した場所から周りの組織へじわじわとしみ込むように広がっていくことをいいます。
IMRT(強度変調放射線治療)
IMRT (Intensity-Modulated Radiation Therapy)
近年直腸がんの放射線治療は技術の進歩により、高い精度で行われています。IMRT(強度変調放射線治療)は複雑なコンピューター制御によって放射線の強さを細かく調整し、がんの形に合わせて放射線を集中して照射することで、小腸や膀胱などの周囲の臓器の被曝を減らしながら必要な腫瘍に対する放射線量を確保できる技術です。これにより、がんへの線量を最大限に高めつつ、周囲の正常な臓器や組織への不要な被ばくを大幅に減らすことができ、治療効果の向上と合併症の軽減を両立させることが可能になりました。
放射線の合併症と対策
放射線治療はがん細胞に大きなダメージを与える一方で、周囲の正常な細胞にも影響を及ぼすため、様々な合併症が現れる可能性があります。ここでは、放射線治療によって起こる合併症の種類と、合併症に対する具体的な対策について、「急性期合併症」と「晩期合併症」にわけて説明をしていきます。現在の医療ではこれらの合併症を軽減する方法も進歩しています。
急性期合併症
(治療中~終了後数週間以内)
Acute-phase complications
(during treatment to within a few weeks after completion)
急性期に現れる合併症とは、治療期間中から治療終了後数週間以内に現れる症状を指します。合併症は放射線が照射される部位や線量、個人の体質により異なりますが、一時的なことがほとんどで、照射が終われば徐々に改善していく傾向にあります。
【主な合併症と対策】
消化器症状:「下痢」「腹痛」「お腹の張り」「頻便」「残便感」「吐き気や食欲不振」
~対策~:下痢止めや整腸剤、吐き気止めなどの薬が処方されます。泌尿器症状:「頻尿」「血尿」
~対策~:頻尿に対しては膀胱の過活動を抑える薬(過活動膀胱治療薬)や、尿の通りを良くする薬が処方されます。血尿が顕著な場合は止血剤が用いられることがあります。皮膚症状:「皮膚の発赤」「乾燥」「かゆみ」「水ぶくれ」「ただれ」
~対策~:保湿剤の塗布や患部を清潔に保つこと、締め付けの少ない衣類を選ぶことが重要です。全身倦怠感:「疲労感」「だるさ」
~対策~:無理をせず休息を十分にとることが最も大切です。
【次ページ】
晩期合併症 (終了後数ヶ月後~数年後)

