大腸がんによる腹膜播種(ふくまくはしゅ)の治療法と選択肢
外科手術で目に見える全てのがん病変を切除する「減量手術(cytoreductive surgery:CRS)」を行った後、温めた抗がん剤を直接腹腔内に循環させる治療法をHIPECといいます。大腸がんの腹膜播種に対して近年注目されている方法ですが、日本では保険未承認であり、先進医療または臨床研究として一部の専門施設でのみ行われている治療法です。がん細胞は正常細胞より熱に対して感受性が高いとされ、温度を上げることで抗がん剤の浸透性や効果が増強される可能性があると考えられています。そのため、抗がん剤を体温より高い温度(一般的に約42 ℃)に加温し、腹腔内を洗浄・循環させる手法が用いられます。
この治療法は減量手術(CRS)でほぼ全てのがん病巣を切除できる可能性が高く、全身状態が良好であるときに検討されます。ただし、有効性については国際的にもまだ十分に確立しておらず、研究段階の治療と位置づけられます。実施できる施設は限られているため、専門医と十分に相談したうえで適応を慎重に判断することが重要です。
がん組織からDNAを抽出し、数百種類に及ぶ遺伝子を一度に解析することで、がん細胞に特有の遺伝子変異を特定する検査を「遺伝子パネル検査」といいます。この検査の目的は、患者さんそれぞれの遺伝子変化に基づき、最も効果が期待できる治療法を選択する「個別化医療」につなげることです。大腸がんの腹膜播種は、進行の程度や全身状態によって選択できる治療法が限られる場合があります。

遺伝子パネル検査を行うことで、これまで対象とならなかった新たな治療薬や臨床試験の選択肢が見つかる可能性があり、検査で特定された遺伝子変異に対して効果が期待される分子標的薬(※5)や免疫チェックポイント阻害薬(※6)など、患者さん一人ひとりに合わせた治療薬の検討を行います。
※5:分子標的薬
病気の原因となる特定の分子(タンパク質や遺伝子など)を狙い撃ちし、その働きを抑えることで、より安全かつ効果的に病気を治療する薬のことをいいます。
※6:免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れるために使う「ブレーキ(免疫チェックポイント)」を解除し、免疫細胞の力を回復させる新しいタイプの治療薬のことをいいます。
腹膜播種の症状における対処法
Managing Symptoms of Peritoneal Dissemination
大腸がんの腹膜播種による症状への対処法は、体調維持や生活の質(QOL)の向上を目的に行われます。ここでは腹膜播種により現れるそれぞれの症状に対する対処法を説明していきます。
【腹膜播種の症状における対処法】
| 症状 | 対処法 |
腹水 (お腹の張り・膨満感) | 腹水が多くなると苦痛が増し、呼吸苦も引き起こされます。そのため、腹腔穿刺(※7)、ドレナージ(針を刺して腹水を抜く)を行い、腹水を体外に除去します。一時的に症状は改善されますが、腹水中の栄養分も同時に失われるため、そのサポートが重要となります。 |
| 腸閉塞 | 腹痛・排便困難、嘔吐が続くときは、まずは絶食・点滴などで腸の安静を図ります。それでも改善のない場合は、鼻から胃や腸に腸管の圧力を逃がす管を挿入し、腸内ガスや内容物を除去します。 それでも改善が見られない場合は緩和的手術を行うことがあります。 |
| 栄養・体力の維持 | 口から食事が摂れないときは、静脈栄養や補液を使用して体力維持を図ります。栄養士・医師が連携することで、できる限り生活の質(QOL)を保ちます。 |
| 痛み・吐き気 | 医療用麻薬や吐き気止めなどを用いた症状緩和が行われます。![]() |
| 治療方針の選択 | 腹膜播種が進行した場合、標準的な抗がん剤や分子標的薬による治療の効果が乏しくなることも多く、延命だけでなく「生活の質の維持」「症状緩和」に焦点を置いた治療選択が必要となります。 |
※7:腹腔穿刺
針を皮膚から腹腔内に挿入し、腹水や内容物を抽出する医療手技のことをいいます。この腹腔穿刺は「一度だけ」腹腔内に針を刺して腹水や液体を抜き取る処置に対し、ドレナージは針やカテーテルを腹腔内に「一定の期間留置」し、連続的に液体を排出し続ける処置を指します。
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