大腸がん末期に必要な緩和ケアとご家族の支え
患者さんを支えるご家族の方へ
末期のがんと診断され、病気と向き合うご本人にとって、家族の存在は、何にも代えがたい大きな支えとなります。この章では、ご家族だからこそできるサポートの形、ご本人との向き合い方のヒント、そして患者さんを支えるご家族の心のケア「レスパイトケア」について解説していきます。一人で全てを背負うのではなく、共にこの困難な時期を乗り越えるための参考にしてください。
本人との向き合い方
Approach to the patient
患者さんは、痛みや不安、恐怖、怒りなど、様々な感情を内に抱えています。
無理に聞き出すのではなくご本人が話したいと思ったときに、ただ黙って耳を傾ける時間が何よりも大きな支えになります。
また「頑張って」「元気出して」といった励ましは、時に「これ以上どう頑張ればいいんだ」というプレッシャーになりかねません。ただ「そうなんだね」「つらいんだね」と気持ちを受け止めるだけで患者さんの心は軽くなり、
「ただそばにいる」それだけで十分なコミュニケーションとなり心の支えになります。
また、患者さんと話しをするとき、病気の話ばかりになるとお互い気が滅入ってしまいます。
天気の話、テレビ番組の話、昔の思い出話など、できるだけ普段通りの会話を心がけましょう。治療方針など重要な話をする際は感情的にならず、冷静に向き合うことも必要ですが、その際は、ご自身の不安な気持ちを「私も不安だよ」と正直に伝えることで、ご本人の孤独感が和らぐこともあります。
ただ寄り添い続ける、その気持ちが何よりも患者さんの力になります。
家族ができるサポートと
情報収集のポイント
Key Points for Family Support and Information Gathering
患者さんの精神的な支えと共に、ご家族には具体的なサポート役として、医師からの説明に同席することも期待されています。患者さんご本人はショックで冷静に話を聞けないことも多いため、ご家族が一緒に聞いてメモを取り、疑問点を代わりに質問したりすることで、治療方針への理解などが深まります。
また、高額療養費制度の申請など、複雑な事務手続きを代行することも大きな助けになります。
病気や治療に関する情報収集を行う際は、国立がん研究センターの「がん情報サービス」や、病院内の「がん相談支援センター」など、信頼できる情報源を活用するようにし、インターネット上の不確かな情報に惑わされないように意識することで、患者さんが様々な情報に振り回されるのを防ぐことができます。
介護保険制度について
About the Long-Term Care Insurance System
がん治療は長期にわたるため、経済的な負担は大きな問題となりますが、負担を軽減するための様々な公的制度として「高額療養費制度」「傷病手当金」「障害年金」「介護保険制度」があります。ここでは、「介護保険制度」について詳しく説明をしていきます。
介護保険制度は、40歳以上の方が対象の公的保険で、医師から「治療が困難な状態にある」と判断された末期のがんの方も対象となり、介護サービスを受けることができます。
お住まいの市区町村の窓口で「要介護認定(要支援認定)」の申請を行い、調査員が自宅や病院などを訪問し、心身の状態について聞き取り調査を行い、認定調査の結果と主治医の意見書をもとに、専門家による審査会でどのくらいの介護が必要か(要介護度)(※7)が判定されます。
申請から約30日後に認定結果が通知され、その後ケアマネジャー(介護支援専門員)と相談しながら、どのようなサービスをどれくらい利用するかケアプランを立て、サービスの利用を開始することができます。
※7:要介護度
「要支援1・2」と「要介護1~5」の7段階にわかれており、数字が大きいほど必要な介護の量が多い事を示します。
【自宅で受けられるサービス】
訪問介護(ホームヘルプ)
ヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴、排せつなどの身体介護や、掃除、洗濯、調理などの生活援助を行います。訪問看護
看護師が訪問し、病状のチェック、医療的なケア(点滴の管理、床ずれの処置など)、痛みのコントロール、家族へのアドバイスなどを行います。訪問入浴
専用の浴槽を自宅に持ち込み、入浴の介助を行います。福祉用具のレンタル
介護用ベッド、車いす、歩行器などをレンタルすることができます。福祉用具の購入
ポータブルトイレ、入浴用の椅子などの購入費用の補助を受けることができます。在宅改修
手すりの設置や段差の解消などの工事費用の補助を受けることができます。
【施設に通うサービス】
通所介護(デイサービス)
施設に通い、食事や入浴、レクリエーション、リハビリなどを受けることができ、ご家族の休息(レスパイト)にも繋がります。
【短期間宿泊するサービス】
短期入所生活介護(ショートステイ)
施設に短期間宿泊し、介護を受けることができます。ご家族の休息(レスパイト)の目的でよく利用されることが多いです。
「がん相談支援センター」や「医療ソーシャルワーカー」、または地域の「地域包括支援センター」に相談をすることで、専門家が相談に乗り、申請を手伝ってくれますので、まずは相談をしてみましょう。
介護保険制度は、治療を続けながら自宅で穏やかに過ごしたいというご本人と、支えるご家族の双方にとって、非常に心強い味方となる制度ですので、ぜひ積極的に活用を検討しましょう。
レスパイトケア
respite care
患者さんを支えるご家族は、身体的にも精神的にも大きな負担を抱えます。介護をする方に知っておいてほしいのが「レスパイトケア」です。
「レスパイト」とは「休息」「息抜き」のことを言い、介護者が一時的に介護から離れ、リフレッシュするための支援を指します。具体的には、介護保険制度などを利用した「訪問介護サービス」や、数日間施設に預かってもらう「ショートステイ」などがありますが、こうしたサービスを利用し、ご自身のリフレッシュする時間を作ることで、しっかり体を休め、睡眠をとることができます。
また、趣味を楽しんだり、友人と会う時間を作ることで、心の余裕を取り戻すことができ、また介護に向き合うことができるのではないでしょうか。
ご家族が笑顔でいることが、患者さんにとって一番の安心に繋がりますので、ぜひご自身の「レスパイトケア」も大切にしてください。
まとめ
末期の大腸がんは、身体的にも精神的にも大きな負担がありますが、限られた時間を「どう過ごしたいか」を軸に、治療やケアを選ぶことで自分らしい時間を持つことができます。延命や症状緩和の治療、在宅での療養やホスピス、それぞれの選択肢には長所と注意点があり、ご本人とご家族が納得して決めていくことが大切です。
また、痛みや不安を和らげる緩和ケア、介護制度やレスパイトケアといった支援制度を活用することで、患者さんだけでなくご家族も安心して向き合うことができます。この記事が、ご本人とご家族にとって「まだできること」を見つけるきっかけとなり、一日一日を穏やかに過ごす力となることを願っています。
【参考文献】
・緩和ケアポケットマニュアル改訂3版 宇井睦人著
・在宅医療リアル実践ガイド 羊土社

