希少肺がんとは?
肺腺様嚢胞癌とは
肺腺様嚢胞癌の特徴と発生頻度
Characteristics and incidence of pulmonary adenoid cystic carcinoma
肺腺様嚢胞癌は、もともと唾液腺に発生することが多い「腺様嚢胞癌」が、気管や気管支の分泌腺から発生した非常にまれな肺がんです。
肺腺様嚢胞癌の大きな特徴は、次の点にあります。
進行がゆっくり
気道に沿って広がりやすい
神経に沿って浸潤(しみこむように広がる)しやすい
遠隔転移や再発が遅れて起こることがある
喫煙との関連が弱い
一般的な肺がんと異なり、非喫煙者にも発症することが知られています。
このように、進行は緩やかでも再発しやすい“長く付き合うがん”という性質が、肺腺様嚢胞癌の大きな特徴です。
肺腺様嚢胞癌は、肺がん全体の中でも0.2%未満とされることがあるほど非常にまれながんですが、気管や気管支に発生する腫瘍の中では20-30%を占めるといわれています。
肺腺様嚢胞癌の多くはMYB-NFIB 融合遺伝子*3を有しており、これが診断の確定に有用なマーカーとなります。年間の発症数も少なく、一般の医療機関で診療される機会は限られているため、診断や治療にあたっては、希少がんの診療経験を持つ専門施設での対応が望ましいとされています。
MYB-NFIB 融合遺伝子*3
本来は別々にある2つの遺伝子(MYB遺伝子とNFIB遺伝子)が、一体になってしまったもの
肺腺様嚢胞癌の主な症状
Main symptoms of pulmonary adenoid cystic carcinoma
肺腺様嚢胞癌は、主に気管や太い気管支に発生するため、腫瘍が気道を狭くしたり刺激したりすることで、呼吸に関わる症状が中心となります。
代表的な症状には、次のようなものがあります。
咳が続く:風邪のような咳が長期間続き、治りにくいのが特徴
息切れ・呼吸困難:腫瘍によって気道が狭くなることで、階段や少しの動作でも息苦しさを感じることがある
血痰・喀血:腫瘍からの出血により、痰に血が混じったり、血を吐くことがある
喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音):気道狭窄により、呼吸時に音がすることがある
胸の違和感や痛み:気管支の壁や周囲へ浸潤することで、胸部の不快感や痛みが出ることがある
また、肺腺様嚢胞癌は神経に沿って広がりやすい性質があるため、進行するとしびれや痛みなど、神経由来の症状がみられることもあります。

上原先生のワンポイントアドバイス
~手術が第一~
腺様嚢胞癌の治療において、最も大切な鉄則は「可能な限り手術で根治を目指す」ことです。このがんは進行が緩やかではありますが、放置すれば気道を塞ぎ、命に直結します。ですから、手術でメインの腫瘍を取り除き、空気の通り道を確保することが何よりも優先される「第一の戦い」となります。
肺粘表皮がんとは
肺粘表皮がんの特徴と発生頻度
Characteristics and incidence of pulmonary mucoepidermoid carcinoma
肺粘表皮がんは、気管支の分泌腺から発生する希少な肺がんです。
一般的な肺がんとは性質が異なり、希少肺がんの代表的な一つとされています。
肺粘表皮がんの主な特徴は次のとおりです。
気管支内にできやすい
悪性度に幅がある
比較的若年層・非喫煙者にも発症
肺粘表皮がんは、肺がん全体の0.1~0.2%前後とされることが多く、気管支に発生する腫瘍の中でも非常にまれなタイプです。
顕微鏡による病理評価によって、低悪性度と高悪性度に分かれ、それぞれで予後が違います。多くの場合は低悪性度とされ、完全切除ができれば予後は良好とされています。
また、診断にはMAML2 融合遺伝子*4の検索が有用であるとされています。肺腺様嚢胞癌と同様に、年間の発症数は少ないため、一般の医療機関で経験される機会は限られており、診断や治療は希少肺がんの診療経験がある専門施設で行うことが望ましいとされています。
MAML2 融合遺伝子*4
本来は別々にある遺伝子が、つながってしまった状態のこと
肺粘表皮がんの主な症状
Main symptoms of pulmonary mucoepidermoid carcinoma
肺粘表皮がんは、気管支の内側に発生することが多いため、気道が狭くなることで起こる症状が目立ちます。初期には風邪や気管支炎と似た症状として現れることもあり、見過ごされやすい点が特徴です。
代表的な症状には、次のようなものがあります。
長引く咳・痰:なかなか治らず続く咳や痰
血痰:痰に血が混じる
息切れ・呼吸困難:腫瘍で気道が狭くなることで生じる
喘鳴:ゼーゼー、ヒューヒューする呼吸音
胸痛:腫瘍の進展や肺炎の合併による痛み
発熱・繰り返す肺炎:気管支がふさがれ、感染を起こすことで出現
腫瘍が進行すると、これらに加えて体重減少、全身のだるさ、食欲不振など、一般的な肺がんと共通する全身症状がみられることもあります。
希少肺がん3タイプの診断方法
これらの希少肺がんは、発生部位や性質は異なりますが、診断の基本的な流れは共通しており、画像検査で病変を見つけ、気管支鏡で組織を採取し、病理検査で確定診断を行います。
画像検査
Image Inspection
まず胸部CT検査で肺の中を詳しく調べると、気管支の内側に境目がはっきりした“しこり“として見つかることが多く、造影CTでは腫瘍がはっきり白く写るのが特徴です。
さらに必要に応じて、MRI検査で脳や肝臓などへの転移がないかを確認したり、PET検査で全身にがんが広がっていないかを調べます。ただし、これらの希少肺がんは増え方がゆっくりなものも多く、その場合はPET検査で異常が目立たないこともあるため、結果は他の検査とあわせて慎重に判断することが大切です。
気管支鏡検査
Bronchoscopy
口や鼻から細いカメラを挿入して気管支の中を観察し、赤くポリープ状に見える腫瘍があれば、組織を採取します。
これらの腫瘍は血流が豊富で出血しやすいことが多いため、検査は慎重に行われます。
病理診断
Pathological diagnosis
気管支鏡検査で採取した組織を顕微鏡で詳しく調べ、病理診断によって最終的にがんの種類を確定します。
細胞の形や増え方、壊死の有無、免疫染色*5の結果などを総合的に評価し、肺カルチノイド、肺腺様嚢胞癌、肺粘表皮がんのいずれか、あるいは他の肺がんや転移性腫瘍でないかを鑑別します。これにより、治療方針や予後の見通しが決まります。近年は分子生物学的検査*6も重要とされ、MAML2(粘表皮がん)や MYB(腺様嚢胞癌)などの融合遺伝子解析は、診断困難例において決定的な証拠となります。
免疫染色*5
採取した組織や細胞に、特定のたんぱく質があるかどうかを調べる病理検査の方法
分子生物学的検査*6
細胞の中にある「遺伝子」や「そのはたらき」を調べる検査のこと
【次ページ】
希少肺がん3タイプの治療法の違い

