大腸がん肉眼分類の基礎知識
早期がん(表層型:0型)の分類と特徴
早期がんと定義(意味を決定づけること)される「表層型(0型)」にも様々な型があり、それぞれの見た目の違いでがんの性質や治療のしやすさなどに特徴があります。この章ではそれぞれの型が持つ特徴や治療法について肉眼分類の図とともに解説していきます。
【表層型:0型】
0-Ⅰp型 ー 「キノコ」タイプ
有茎性隆起型とも言われ、きのこのように大腸の粘膜から茎を突き出しているため、内視鏡検査で早期発見されやすい特徴があります。
【治療法】
「内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)」(※1)
「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」(※2)
比較的安全かつ簡単に切除することが可能です。
0-Ⅰsp型 ー 「くびれ」タイプ
亜有茎性隆起型とも言われ、「有茎性(Ⅰp型)」と「無形性(Ⅰs型)」の中間的な形状をしたポリープを指し、Ⅰp型のようなはっきりした長い茎はないものの、Ⅰs型のように完全になだらかな丘状でもなく、短く太い茎のようなくびれを持つのが特徴です。
【治療法】
「内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)」
「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」
切除したポリープを病理検査した結果、がんが粘膜下層の深くまで達していると判断された場合や、内視鏡では安全に一括で取り切れないほどの巨大なポリープの場合、または病理検査でポリープの切り口にがん細胞が残っている(断端陽性)と判断された場合は、外科手術による病変があった腸管切除および周辺のリンパ節郭清(※3)が必要になる場合があります。
0-Ⅰs型 ー 「ドーム」タイプ
無形性隆起型とも言われ、茎がなく、なだらかな丘やドームのように盛り上がっているのが特徴です。
【治療法】
「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」
0-Ⅱa型 ー 「じゅうたん」タイプ
表面隆起型とも言われ、粘膜の表面に横に這うように広がる、わずかな盛り上がりとして観察され見逃されやすいため粘膜の「色素散布(※4)」、「画像強調観察(※5)」を行う工夫が必要になります。
特に、横に大きく広がるタイプのものは「LST(側方発育型腫瘍)」と呼ばれ、近年注目されている型と言われています。
【治療法】
「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」
2㎝を越えるような大きなLST(側方発育型腫瘍)の場合は、「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)(※6)」で一括切除(※7)を目的に選択されることが多くなります。
0-Ⅱb型 ー 「シミ」タイプ
表面平坦型とも言われ、周囲の正常な粘膜との間に、盛り上がりも凹みも全くないため、通常の観察ではほとんど見分けることができず、表層型の中で最も発見が困難なタイプと言われています。
このタイプを見つけるためには、経験豊富な医師による注意深い観察と、粘膜の「画像強調観察」、「色素散布」が不可欠となります。
【治療法】
「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」
「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」
0-Ⅱc型 ー 「えくぼ」タイプ
表面陥凹型とも言われ、粘膜の表面がわずかに「凹んでいる」のが特徴です。
見た目の小ささや浅さに反して、粘膜下層へがん細胞が染み込むように広がる(浸潤する)こともあり、切除したら実は進行がんであったという結果にもなりやすいタイプです。がんの深さ(深達度)をより正確に診断することが極めて重要になります。
【治療法】
がんの深さによって、内視鏡治療ではなく外科手術が選択されることもあります。
複合型 ー (例:0-Ⅱa+Ⅱc型)
これまで説明してきたタイプが単独で存在するだけでなく、一つの病変の中に複数のタイプの特徴が混在する「複合型」も多く見られます。
複合型を診断する上で「Ⅱc(陥凹)成分」が含まれているかどうか」が最も重要とされており、Ⅱc型は深く浸潤しやすい性質を持っているため、たとえ病変の大部分が隆起していても、一部にでも陥凹部分があれば、その部分から深く浸潤している可能性があります。
【治療法】
治療方法は、最も悪性度の高い部分の性質に基づいて、より慎重に治療法が決定されます。
※1:内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
茎の部分に「スネア」と呼ばれる輪っか状のワイヤーを引っ掛けて、高周波電流で焼き切る方法
※2:内視鏡的粘膜切除術(EMR)
粘膜の下に生理食塩水などの液体を注入して病変全体を人工的に浮き上がらせてから切除する方法
※3:郭清
ポリープがあった腸管の周りにあるリンパ節に癌が転移していくため、そのリンパ節の流れにそった範囲のリンパ節を一緒に切除すること
※5:画像強調観察
特殊な光(NBIなど)で粘膜の微細な変化を強調し血管のパターンを観察する方法
※6:内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
専用のナイフで病変の周りを少しずつ剥がしていく、EMRより高度な技術で切除する方法
※7:一括切除
病変をひとまとめで切除することで、いくつかに分けて切除することを分割切除という
杉本先生のワンポイントアドバイス
~良性のポリープと早期がんの表し方について~
食道、胃、大腸に共通して表在型(0型)を定義している分類にParis分類というものがあります。Paris分類は内視鏡で見えたポリープの形で分類し、Ⅰ型(Ⅰp.Ⅰsp,Ⅰs)とⅡ型(Ⅱa、Ⅱb、Ⅱc)とⅢ型があります。大腸にはⅢ型の病変がまだ発見されていないため、大腸ポリープの場合は省略されています。先ほどの大腸がん肉眼分類と同じ形で定義されています。
今回のテーマである大腸がん肉眼分類で病変を定義する場合、表層型(0型)と記載すると、それは早期がんとすでに確定したという意味になります。そのため、内視鏡でみただけでは早期がんと決められるのは難しく、切除後の組織結果(病理結果)を確認して初めて決定できます。
よって、内視鏡の結果報告書で記載するポリープはローマ字表記のみで表していることが多いと思います(例:Paris分類で0-Ⅰp型→Ⅰp型と記載する)。病理検査(※8)の報告書で、早期がん(粘膜下層までの浸潤にとどまる)であれば、この時に大腸がん肉眼分類における0-Ⅰp型と記載できるようになります。
表記が全く同じであり、混同しやすいと思います。そのため内視鏡所見では算用数字は省略され、ローマ数字のみの表記にし、病理検査では算用数字の0まで記載されています。
※8:病理検査
切除などで得られた組織・細胞を顕微鏡で細かく観察し、癌細胞の有無やどの範囲まで癌細胞が広がっているかなどを直接見て確認する検査

杉本先生のワンポイントアドバイス
~最近の内視鏡的ポリープ切除についての考え~
大腸ポリープに関して、日本では小さくても将来の癌化の可能性を少しでも減らすという目的で切除することが一般的です。負担がなるべく少なくなるように、7㎜以下の隆起型ポリープでは電流を使わず、直接スネアで根元を引きちぎり切除するコールドスネアポリペクトミーが主流になっています。ただし浅い層までしか切除できないため、癌成分がないポリープ(良性ポリープ)に対して選択されます。その判断の材料として、画像強調観察や色素散布したうえでの観察を併用、ポリープの形や大きさなども参考にします。
一方でサイズが10㎜を超えるポリープや隆起の少ないⅡa型ではEMRで電流を用いて確実に病変切除をするようにしています。癌が含まれる可能性がある場合は、ある程度深く切除できるように電流を用いた切除を選択します。
Ⅱb,Ⅱcタイプやがんの可能性が高い病変では、取り残しや確実に切除病変を評価する目的で、ESDを選択することが多いです。ESDにする目的の一つは確実な一括切除です。分割切除では見た目上切除できても、癌の取り残しがある可能性を否定できません。切除病変を一括で切除して、病理検査で確実に粘膜下層の浅いところまでの浸潤しかない、かつ、取り残しなしと確定できてこそ、確実な治療となります。
ESDまで行う場合は、基本外来通院での処置ではなく、入院処置になります。処置後、大きな合併症がなくても数日から1週間程度の入院が必要です。
【次ページ】
進行がん(腫瘤型:1~5型)の分類と特徴

