前立腺がんの痛みの特徴とやわらげ方
前立腺がんの痛みへの対処法
前立腺がんによる「痛み」を可能な限り和らげることが、ご本人のQOL(生活の質)を維持し、前向きな気持ちを支えるための鍵となります。この章では、医療機関での専門的な対処法と、ご自宅でご本人やご家族ができる緩和ケアについて、医師である広重先生にアドバイスをいただきながら、具体的に解説していきます。
医療機関での対処法
What to Do at a Medical Facility
医療機関では、痛みの原因や種類、強さに応じた専門的な治療を受けることができます。
基本となるのは、WHO(世界保健機関)が推奨する「がん疼痛治療法」に基づいた鎮痛薬の使用です。従来は痛みの強さに合わせて、非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)から、弱オピオイド、強オピオイド(モルヒネなど)へと段階的に薬を調整していましたが、近年では痛みの強さや種類に応じて、最初から強オピオイドなどを使用することもあります。
貼り薬や飲み薬など、形状も様々です。便秘や吐き気などの副作用が出ることがありますが、それらを和らげる薬も併用しながら、最適な処方を探っていきます。

医師 広重先生のお役立ちコメント
年配の方や医療用 ”麻薬” という言葉に抵抗のある患者さんは鎮痛薬を飲むことに対して抵抗のある方も少なくありません。しかし、きちんと指示通りに服用していれば怖いことは決してありません。
がんの痛みは我慢するものではなく「痛みをとることで生活を取り戻すことができる」、そういった視点で服用してほしいと思います。また、量が足りなかったり、薬剤の種類を変更して欲しかったりする時なども積極的に医師に相談してみてください。
骨転移による局所的な強い痛みに対しては、放射線治療が有効な場合があります。
痛みの原因となっている箇所に放射線を照射することで、がん細胞を減らし、痛みを緩和する効果が期待できます。治療期間や回数は症状によりますが、比較的短期間で効果が現れることもあります。
状況に応じて神経ブロックやビスフォスフォネート製剤などが用いられることもあります。
転移の部位が多い時は?
放射線治療は疼痛を生じている部分に行うものであり、疼痛のある箇所が多ければ、それだけ多くの箇所を治療しなければなりません。そういった患者さんに有効な治療がラジウム-223(ゾーフィゴ®)です。

この薬は、4週間ごとに1回、静脈から注射で投与し、最大6回まで繰り返します。体内に入ったラジウム-223は、がんが転移した骨に選んで集まり、そこで放射線を放出してがん細胞を破壊します。
つまり、全身に広がった骨転移に対して、まとめて治療できるのが大きな特長です。
ただし、この治療を受けるにはいくつかの条件があり、すべての前立腺がん患者さんに使えるわけではありませんので、関心のある方は、ぜひ主治医に相談してみてください。
医師に相談する際にメモしておきたいこと
痛みを感じ始めたら、あるいは痛みの種類や強さが変化したら、主治医や看護師、緩和ケアチームに相談することが最も重要です。
その際、あらかじめ以下の項目をメモしておくとスムーズに適切な治療をうけやすくなります。
いつから痛むのか
どこが痛むのか
どんなふうに痛むのか(ズキズキ、ジンジン、重苦しい等)
どのくらいの強さか
(0を痛みなし、10を最悪の痛みとして10段階で伝える)どんな時に強くなり、どんな時に和らぐか
痛みによって日常生活で困っていることがあるかどうか
(眠れない、食欲がない、動けない等)
家庭でできる対処法
Home Remedies
医療機関での治療と並行して、ご自宅でのケアも痛みの緩和に役立ちます。
これは、ご本人だけでなく、そばで見守るご家族も一緒に取り組める大切なサポートです。大切なことは、ご本人の状態や意向を尊重し、無理のない範囲で行うことです。
ご家族は、ご本人の様子を注意深く観察し、変化やケアの効果、副作用などを記録して医療チームに伝える「架け橋」としての役割も担います。
クッションや抱き枕を活用する
痛む部位への圧迫を避けたり、体が安定するように支えたりします。
無理のない範囲で体位変換を行う長時間同じ姿勢でいると痛みが増すことがあるため、ベッドで過ごす時間が長い場合は、医師や看護師に相談の上、無理のない範囲で体位変換を心がけることも有効です。
椅子に座る際も、背もたれや座面にクッションを置くと楽になることがあります。
痛みは、不安や恐怖、気分の落ち込みといった心理的なストレスを増大させます。
そのため、心のケアも痛みの管理においては、非常に重要です。
おすすめのストレス軽減方法
ご本人がリラックスできる時間を持つこと
深呼吸や瞑想
穏やかな音楽を聴く
好きな香り(アロマなど)を楽しむ
趣味に短時間でも触れる
また、ご家族や親しい友人との穏やかな会話や、ただそばに寄り添う時間も、安心感につながり、痛みの感覚を和らげる助けになります。
必要であれば、臨床心理士やカウンセラーなどの専門家のサポートを受けることも有効な選択肢です。
緩和ケアは、治療の最終段階だけでなく、がんと診断された時点から利用できる医療です。痛みや不安、息苦しさといった苦痛をやわらげ、その人らしく過ごせる時間を支えるのが目的です。
特にご自宅での療養を希望される場合、在宅医療の利用が有効です。
医師や看護師が定期的に訪問し、痛み止めの調整や体調管理を行ってくれます。
痛みのコントロールには、医療用麻薬も含めたさまざまな手段があり、本人に合った方法を一緒に探していくことが可能です。
まとめ
がんはゆっくり進行しているように見えても、ある日突然、症状が現れることがあります。つい昨日まで普通に生活していた方が、急に起き上がれなくなったり、動けなくなって救急搬送される─そんなケースもあります。中には、そのまま自宅に戻ることなく、病院で最期を迎える方もいらっしゃいます。
症状が出てから慌てて対処しようとしても、対応が後手に回りやすく、結果的に貴重な時間を慌ただしく過ごすことになってしまうかもしれません。だからこそ、治療薬が変わるタイミングや、病状が変化する節目では、医師に今後の見通しや選択肢について、遠慮なく相談しておくことが大切です。
先を見据えた事前準備をすることで、残された時間をより自分らしく、納得のいく形で過ごすことができます。
この記事を、希望ややすらぎを見失わずに過ごしていける今後の選択に役立てていただけると幸いです。
【参考文献】
・日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 (編). がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版. 金原出版, 2020.
・日本泌尿器科学会・日本放射線腫瘍学会 編:前立腺癌診療ガイドライン 2023年版,金原出版,2023年

