我が家に帰りたい気持ち
どんな看取りだったかお聞かせ頂けないでしょうか
宇野さん(仮名)は穏やかで真面目で物静かな方でした。認知症の症状としては帰宅欲求がとにかく強く、会話は成立するのですが常に「家に帰らなければいけない」「早く帰りたい」といった感じで帰ることばかり気にされていました。
「夕方になったら娘さんが迎えに来てくれるそうなので、それまでご飯の準備を手伝ってもらえませんか?」と声をかけると手伝ってくださるのですが、終わるとすぐに帰る支度を始めます。何をしてもその繰り返しで、気を紛らわせることはできませんでした。
娘様が理解のある方で、電話をして安心させてくれたりするのですがすぐに忘れてまた帰り支度を始めます。娘様がご自宅へ外泊に連れ出してくださり、ご家族に会ったりドライブに行ったりして気分転換をされて来て「とても穏やかに過ごしていました。」と報告されるのですが、やはりグループホーム(GH)に帰ってきた途端に「帰ります。」と訴えられます。
帰りたいのは当たり前のことなので無理に止めようとは思いませんが、宇野さんは高血圧の持病を持っていて通常血圧がとても高く徘徊が始まると最高血圧が200を超えるほどになります。
本人は帰ることに必死のため自覚はないようですがフラフラと足元もおぼつかなくなりとても危険な状態でした。なので、徘徊をやめさせたいと言うよりは血圧を心配して少し休んで欲しいのが職員の願いでした。
お誕生日の前日、娘様に連れられて外泊に出掛けられました。マッサージに行き温泉に入り、とても充実した時間を過ごされたとのことでした。心なしか、穏やかな表情に見えました。私は担当だったためお誕生日会の計画を立て、プレゼントを用意していました。喜ぶ顔が楽しみでした。
しかし、帰宅した夜に宇野さんが就寝してしばらくしたあと遅番者が夜勤者と交代し、巡回に行くとベッド上で激しく嘔吐され意識がなく血圧も計れないくらいの数値でした。すぐに応援を呼び心肺蘇生をして、救急車を呼び搬送されました。面会に行こうとしましたが治療もなす術なくそのまま亡くなってしまいました。
娘様は、自分が温泉やマッサージに連れて行ったことが引き金だったのではないかとすごく気にされて落ち込んでいましたが主治医いわく、もともと高血圧で血管が脆くなっておりプツプツと切れていて、たまたま大きな血管が破裂してしまい死に至ったとのことでした。
突然の出来事で、職員も家族もなかなか現実を受け入れられずに悲しむ間もないまま時間が過ぎていきました。