言葉にできなくても伝えたいことはある
どんな看取りだったかお聞かせ頂けないでしょうか
アイさん(仮名)は、花や自然が好きで子供や動物が大好きな優しい方でした。ご自宅で介護をされていましたが、認知症の症状が重く意思疎通ができず徘徊もあり夜中に外に出て行ってしまったりと、家族も目が離せない状態で大変とのことで入所となりました。
要介護1で入居されたため、ある程度の日常生活はできるものだと思っていたのですが全く言葉を話さず表情もなく、本人からの情報が一切入ってきませんでした。こちらの指示も通らずどうすればいいか悩み、手探りで接していたところ介護認定の再審査で要介護4との判定が出ました。
言葉は発しませんが尿意はあるためトイレが近くなるとソワソワし出し、誘導するとズボンを脱いで自分でトイレで排泄できます。下着も普通の下着でした。食欲旺盛で「食べる」ということは理解されてご自分で食事もされていました。歩行も自立でスタスタと歩かれます。
しかし、なかなか表情が読めず言葉も発しないため意思を汲み取るのが難しく上手に関わるのに時間がかかってしまいました。私が一方的に話して反応を伺う形にはなってしまいますが、とにかくマンツーマンでたくさん話を振りました。また、いろんな景色や写真を見てもらって反応を見たり、ご家族からも家での様子を聞きました。
そのうちに好きなことが少しずつわかってきました。まずはお花が好きで花壇を散歩すると笑顔が見られました。足元がおぼつかないですが、一緒に花壇の水やりをすると楽しそうにされていました。
買い物は好きですが、スーパーに行くと商品を破ったりしてしまうことがあるとご家族から聞いていました。それでも試しに一緒に買い物に行きました。カートを押していただくと足取りも良く、商品を眺めながらスタスタと歩かれていました。車に乗ると景色を見ながら笑顔が見られました。
子供や動物がとにかく好きで、テレビで赤ちゃんの映像を流すと泣いている赤ちゃんをあやすようにテレビのそばに行き「どうしたんだ?なんで泣いてるの?大丈夫だよ。」と、言葉を引き出すことにも成功しました。外の風に当たって景色を眺めると四季を感じることができるようで、畑や田んぼの心配をしたり近所の家の話を聞かせてくださいました。
ご家族にその話をすると、家では花壇でお花を育てていて畑や田んぼもやっていたので近所の人とも交流があったため気にされているのかもとのことでした「野菜は育ってるよ。◯◯さんも元気にしてるよ。」と娘さんが言うと安心したように笑顔が見られました。
夜間不眠が見られ、私が夜勤のときにアイさんが夜中に徘徊していると、一緒にリビングでテレビを見ながらホットミルクを飲み、悩み相談会を開いて話を聞いてもらったりしていました(笑)普段は会話が成立しないのですが、たまにピントが合うとしっかりとした的確な返答が返ってきて若い私に人生のアドバイスをくださいました。
その後、身体は不自由ないのですが認知症がかなり進行してしまい、集団生活が困難になってしまったので、特別養護老人ホーム(特養)へのお引っ越しが決まってしまいました。一緒にお昼寝をしたり恋バナを聞いてもらったり、頼れる人生の先輩だったのでお別れは寂しかったです。
特養は人数が多いため1人1人に関わる時間が短く、マイペースに歩くアイさんは「歩行困難」とみなされたようで引っ越してすぐ車椅子になっていました。自分で食事をすることもできるのですが、片付ける都合上なのか食事も介助になってしまい結局全介助に。
その後、誤嚥性肺炎を起こし亡くなったとの話を聞きました。
あのままグループホームで過ごしていただいていればそんなことはなかったのかなとも思いましたが、誰が悪いとかではないのでアイさんが幸せを感じて最期まで暮らせていたらいいなぁと今では思います。