レビー小体型認知症というもの
どんな看取りだったかお聞かせ頂けないでしょうか
江藤さん(仮名)は工場で45年間働き、若い頃はスポーツを趣味としていたそうです。60歳で車の運転免許を取り、スキーや書道を始めたりと、定年後もとても活動的でした。運転が好きで、全国を旅したとよく話してくださいました。
奥さんのことが大好きで家では奥さん、奥さんという感じだったそうです。しかし江藤さんが認知症になりその姿を見たり、看病しているうちに奥様が鬱病になってしまい、当グループホーム(GH)に入居することになりました。
江藤さんはとても几帳面で勉強熱心な方で、自身の病気について勉強したり、職員の名前を覚えようと常にノートを持って行動していました。神経質になりすぎてそのノートがパニックの原因になることがありました。パニックになるとあちこちに電話をかけたり、ご家族を呼んだりとバタバタすることもありました。基本的には穏やかで品のある方でしたが、レビー小体型認知症の進行が進むと症状は悪化し、幻視、幻覚、幻聴が現れました。
他の入居者が奥様に見えてしまい話しかけたり、スキンシップをして怖がられてしまったり、誰もいないところにも奥様が見えているようで笑顔で話をしていることもありました。そのことから他の入居者に不審がられることが増えてきてしまいました。誰かが見ている、物を盗まれたなど妄想が始まり、不眠で夜間も動き回ったり大声を出すことが増えました。不安から職員に対しても攻撃的になり、暴言や手が出ることもありました。
意識がハッキリしているときは笑顔で職員と会話をしたり、ご家族のことも認識して他の入居者とスポーツなどのレクリエーションを楽しむこともありましたが、それも少しずつ減り混乱する時間が増えていきました。
パーキンソン症状(身体の震え、筋肉のこわばり、動きがゆっくりになる、身体のバランスを保つのが難しくなる等の症状)も見られ歩行が困難になり、歩行器を使用するようになったのですが混乱することが多く歩行器が何か他のものに見えてしまいひっくり返してみたり、逆さまにして振り回したり、歩行器を居室や廊下に置き去りにしてすり足で出てきたり、むしろ歩行器がある方が危険な感じで常に見守りが必要になりました。
穏やかにリビングで過ごされていたかと思ったら突然立ち上がり、隣にセットしてあった歩行器をまたごうとしてつまづいて転倒、骨折してしまうこともありました。それでも痛みは感じないようで退院後はスタスタと歩いていました。
昼夜問わず興奮状態が続くようになり、安定剤と眠剤が処方されました。それでも動き回ってしまうので危険がたくさんでした。マンツーマンで話を聞くのですが全く話が噛み合いませんでした。それでも機嫌がいいときはいいのですがなんのきっかけもなく突然怒鳴り声をあげて激怒することもあり対応が難しかったです。
肺気腫(肺や気管支の炎症から気道が細くなる病気)を患っているためあまり行動的になると発作が出てしまうので休んで欲しいのですが、本人は動き回ってしまいます。意識がハッキリしているときは薬に依存することもあり、眠剤や安定剤を何度も要求して来られるため、偽薬を渡してその都度安心してもらっていました。
偽薬でも安心感に繋がるようで、眠れる日もありました。何日も寝ずに興奮状態が続いたあと、ようやく眠りにつくと今度は全く起きる気配がなく、起こしても反応がなかったため主治医に診てもらいました。しかし特に病気などではないとの診断でした。
オムツ交換はできますが食事が摂取できないので、病院へ入院することになりました。それからしばらくして、江藤さんが亡くなったということを聞きました。興奮状態が続いていたときはとても「人間らしい」とは言えない状態でしたが、あんなに元気に動き回っていたのに突然亡くなるなんてびっくりしました。