父の最後は日々の暮らしの中で ~ 娘が語る 父の旅立ちの物語 ~
どんな看取りだったかお聞かせ頂けないでしょうか
平成29年9月1日、真夏の残暑は厳しかったけれど、朝から良い天気で爽やかな風の吹いている日でした。「お父さんおはよー」と寝室の扉をあけ、カーテンと窓を開けて風を入れ、母も兄も、それぞれに食事を作ったり家庭ゴミを出しに行ったりして、今日もまたいつもの日常が始まるはずでした。
父の顔を覗き込むと、昨夜の苦しげな呼吸もようやく治まったようで、穏やかに寝息をたてていました。「お父さん落ち着いたみたい」そう言って食卓についたのです。
10時。そろそろ目が覚めたかなと様子を見にいってみると、誰も気付かないうちに、父は自分のベッドの上で穏やかに息を引き取っていました。
「あれ?お父さん?」動かなくなった父はまるで眠っているようで、おそるおそる鼻に手をかざしてみました。「なによ…お父さんてば。」突然訪れた「その時」にも関わらず、自分が予想していたような気持ちの動揺は不思議なほど無いまま、母と兄にすぐに伝えに行きました。
二人とも「そっか」「うん」と呟くと父の居る寝室に向かいました。後で母から「何となく覚悟は出来てたしね。騒いだってお父さん生き返るわけでもないし。いつもの寝顔だったし」と聞いて「ああ多分私もそうだったのかも」と思ったものです。
あの時気持ちが揺れなかったのは、まだ目の前にパジャマ姿の父が居たからだったのか...。そう想いを巡らせながらしばらく呆けていましたが、何もしないで主治医の先生の到着を待つ訳にもいかず、手分けして親戚に電話をしたり、これから始まる通夜のために部屋を片付けたり。
そして肝心の父は、1時間近くもベッドの上に放ったらかしにされていました。「あー!お父さんゴメンね一人にして」と時折声掛けしつつも、顔にかける白布もないまま、とにかく主治医に先生が到着するのをひたすら待っていました。
ようやく先生到着。ひととおり聴診器を当てて瞳孔検査をして「じゃあ、死亡診断書を書きますのでね、あとで病院に取りに来てください」そう言ったあとに「がんばったねえ、章さん」と冷たくなった父に優しい声をかけてくださいました。